先ごろ “漫画家水木しげる”が、惜しまれて93歳で亡くなりましたが、この妖怪について、
少し前に届いた会報に講演記録として、キチット分析された記事が載せられていて、面白く読ませて
いただきましたので、そのエキスを抜粋してご紹介したいと思いました。
会報の記事は、「日本の妖怪文化 ~その特徴と魅力~」と題して、今年6月に行われた講演の要旨で、
演者は、小松和彦氏(国際日本文化研究センター所長)です。 氏は、文化人類学と民俗学を専門に
神々や精霊に対する民間信仰について伝統行事と関連させながら研究されているといい、これまで
「妖怪文化入門」(角川文庫)、「異界と日本人」(角川文庫)などいくつかの書籍を出版されています
ので存知の方もおられるかもしれません。(私は全く知りませんでした。)
明治末年に「妖怪学」が創設されたそうですが、もともと妖怪は、日本の精神文化の根底にあって、日本人の想像力を刺激し、宗教、文学、芸能、絵画、娯楽などに広く溶け込んで、中でも
絵画表現の分野で豊かな果実を実らせてきたという。 また、現代において、妖怪を研究する意義として、
①日本文化史や民衆文化史を構成する重要要素であり、②人間や日本人を考える素材であり、
③現代文化創造のための資源である・・と説かれています。
難しいことはさておき、妖怪は古くは「古事記」「日本書紀」「風土記」に登場し、ヤマタノオロチ、
ヤタガラス、邪神などがそれで、さらには、河童、天狗、鬼、土蜘蛛、山びこ、狐、犬神などなど
広い範囲に渡っています。
現在では、「ゲゲゲの鬼太郎」「となりのトトロ」「千と千尋の神隠し」「妖怪ウオッチ」などに発展し、
今や怖い、恐ろしいというイメージから 有能で可愛く愛すべき身近な存在として親しまれているのですね。
妖怪画 (歌川国芳画 福岡市博物館蔵)
(大阪歴史博物館HPより)
氏は、妖怪表現史を5期に分けて構築されていると分析されています。すなわち、要約しますと
“第1期は12~15世紀で、信仰の対象としての絵画で、「物の怪」として不吉な扱いをされ、
第2期14~16世紀では、妖怪退治、異界訪問などの絵画としていわゆる「化け物」を退治するなどで
扱われている。第3期の16~17世紀では、妖怪を退治するという視点ではなく、娯楽化、キャラクター化の
先駆として登場している。「百鬼夜行絵巻」等もその一つで、絵巻では、琵琶、琴、冠、鍋、経典などの
道具の妖怪が多く描かれている。そして、次々と新しい道具が発明されると妖怪の種類もそれに合わせて
飛躍的に増えた。第4期18世紀~明治初期には、印刷技術が進み、これまでより「妖怪がキャラクター化
した」「妖怪を楽しむ時代になった」という風に普及してきた。そして第5期、20世紀末~現在では、
明治の近代化と共に一旦は妖怪文化は抑圧されてきたが、戦後これらの妖怪は、水木しげる、宮崎駿、
京夏彦、高畠勲らの創始者によって次々と復活させてきました。”
というように、つまりは、昔も今も常に過去の日本文化の豊潤な宝庫の延長線上に妖怪を描いてきた
のであり、その伝統は厚みを持って形成され、今も大衆文化の一角を占めており『日本がアニメ、
コミック、ゆるキャラなどが次々と生み出される理由は、異界と妖怪の絵物語(ファンタジー)の
長い歴史と豊かな伝統、多様なキャラクターの蓄積を持つからであり、世界に誇れるのではないか』と
結ばれています。
妖怪大百科
(アマゾンHPより)
妖怪というと、これまで異界だから当然、少し距離を置いてみていましたが、このように歴史的、
文化的に捉えてみると、一段と身近な存在であるとして再認識した次第です。
この夏に、鳥取、島根に行った折、妖怪ワールド(水木しげるロード)も見学する予定でありましたが、
松江城の見学をしっかりとしたため、時間が無くなり妖怪を割愛せざるをえなかったのは、今にして思えば
大変残念なことでありました。