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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

非暴力 武器を持たない闘士たち

2007-10-06 13:09:11 | 人文・社会科学系
 非暴力・不服従運動について、主としてアメリカとヨーロッパでのその展開について広く浅く紹介した本。
 このテーマにありがちなようにカバーではガンジーの写真を掲げ、はじめにガンジーとイエス・キリストを非暴力運動の象徴として紹介していますが、ガンジーやアジアの運動については終盤で付けたし的に紹介しているだけで、著者の関心は専らヨーロッパとアメリカでの良心的兵役拒否や公民権運動などにあります。
 大半の宗教は戦争を非難し道徳に反することなく政治的変革を進めることのできる道は非暴力しかないと認めている(30頁)にもかかわらず、正義の戦争とか敵方は人間ではないとかのレトリックで戦争が煽られて行き、一度戦争となると非暴力を貫く者が虐殺されあるいは投獄されてきた歴史が繰り返し紹介されています。
 非暴力不服従運動を実践することは非常な忍耐を要し、権力者は非暴力不服従の危険を知っているので暴力によって挑発したり運動に紛れ込ませたスパイによって暴力を行使させたりして切り崩しを図り、多くの運動が圧倒的な暴力に対しては暴力で闘うしかないとか今回は例外だとかして暴力を行使して大義を失って衰退して行ったことが論じられています。
 アメリカ独立戦争期のペンシルバニアでの兵役拒否やインド独立運動、アメリカでの公民権運動など成功した非暴力不服従運動も長く続かず暴力派へと主導権が移って行きました。
 しかし、他方において武力の行使や武力による威嚇の成果とされている歴史上の変革も実際には戦争によらなくても実現できた可能性が高い(アメリカ独立とか)し、戦争で実現したというのは後付(ファシズムとの戦いとか)で実態は違うとも指摘しています。
 ナチスのユダヤ人虐殺に対しても渋々占領された上でナチスへの非協力に徹し政府主導でユダヤ人を匿い続けたデンマークでは1人もアウシュビッツには送られず、他方武装抵抗した国々では多くのユダヤ人が虐殺された(206~208頁)ことも非暴力運動の成果と指摘されています。プラハの春以後のチェコやポーランドの連帯の運動なども非暴力運動の系譜に位置づけられ、大きな流れとしてのとらえ方に新鮮味を感じました。
 それぞれの運動を知るためにはちょっと物足りない感じですが、これまで知らなかったアメリカ先住民やアメリカ独立期、ヨーロッパでの各種の運動の存在を知ることができただけでも勉強になりました。


原題:Nonviolence
マーク・カーランスキー 訳:小林朋則
ランダムハウス講談社 2007年8月8日発行 (原書は2006年)
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