伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

事故と安全の心理学

2007-10-26 00:57:46 | 人文・社会科学系
 交通事故と医療事故を例に認知心理学の立場から事故に至るヒューマンエラーが発生する過程と事故防止のための対策について論じた本。
 人間の視力の感度がいいのは注視点から角度でわずか2度程度(130頁)で近距離を注視しているときから遠距離への切替に時間がかかり例えばカーナビを見るとき見ようとした時点から前方への注意が劣化し5秒くらいはその影響がある(144~150頁)とか、医療機器のデザインが専門家が使うというイメージからヒューマンエラー防止の配慮が少ない(174~177頁)など、主目的の交通事故と医療事故についてはいろいろと勉強になりました。
 しかし、研究者の共著にありがちですが(私も最近同じ出版社から出た心理・臨床の人たちとの共同執筆本に書いてますから他人のことは言えませんが)、執筆者の関心があちこちを向いていて読者としてはスッとは読みにくい。
 それとこの本全体を通じて、原発はヒューマンエラー防止の措置が完璧であるかのような記載が何度か見られ、原発については運転者のミスを防ぐ観点からの原稿はなく、原発の安全性についての市民の「誤解」を解くための説得の試みの原稿が入っています(第2章)。このあたり、リスクとヒューマンエラーというサブタイトルやこの本のテーマからはかなりの違和感を覚えました。原発については運転者のヒューマンエラーのリスクはなく危険だと思う市民がヒューマンエラーだとでも言いたいのでしょうか。第2章だけでなく他にも原発ではヒューマンエラーを防ぐ仕組みが講じられているという記載が何度か見られることからすると編著者の意向なのだと思います。そういうのを見ていると心理学というものが国策を市民に対して説得するための御用学問になりうることの危険性を再認識させる本とも言えそうです。


三浦利章、原田悦子編著 東京大学出版会 2007年8月31日発行
コメント
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