伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

原発と原爆 「日・米・英」核武装の暗闘

2012-10-06 22:09:50 | ノンフィクション
 日本の政治家と官僚たちが、核武装能力を持ち維持するために、原発の導入に際して原発の運転で生じるプルトニウムの返還を求めるアメリカをイギリスやさらにはソ連と競争させることで妥協させ、東海再処理工場の建設でもプルトニウムの混合抽出を求めるアメリカに対して粘り強い外交交渉で事実上の単体抽出を認めさせた(混合抽出が技術的に有効と日米が合意すれば混合抽出に切り替える→日本政府が無効と言い続ける限り単体抽出継続可能)などの経緯をレポートし、原発と原爆・核武装が深く結びついていることを論じる本。
 著者の主張は、核武装カードがあったからこそ日本政府は60年の安保改定を有利に進められたし、核武装カードがなければ沖縄返還交渉や日中国交回復も今とは違った形になったかもしれない(後2者は第5章の終わりでそう書いているだけで具体的なことは紹介されていませんが)、先人が努力して確保してきた核武装カードを、反・脱原発の世論に迎合して簡単に捨てるべきではないというものです。
 外交を含めた交渉にはさまざまな交渉材料があるのは当然で、核武装カードを重視しそれに頼る外交は、国際社会での日本の地位を北朝鮮のようにするリスクを抱えることになります。現に北朝鮮やイランなどが核拡散防止の観点から批判されるときに決まって持ち出されるのが日本の余剰プルトニウムや再処理工場・ウラン濃縮工場という事態が繰り返されています。現代社会では、核武装や戦争などの「脅し」系の材料以外での交渉こそが求められているのだと私は思います。こういった核武装カードに頼る冷戦時代的発想との訣別こそが求められているのではないでしょうか。
 この本の中では、核武装カードの話以外にも、アメリカの被爆者治療センター構想が共産主義者のプロパガンダの材料を消し放射能の人体への影響を調査研究することが目的で被爆者の救済など目的ではなかったこと(36~56ページ)、東海原発(1号機:コールダーホール型)の建設をイギリスのGECは将来を見込んで格安で落札したが耐震設計が未知数の上日本側が契約を楯にすべてをその価格内で修理交換させ嫌気がさしたGECは原子力事業から撤退し建設が終わると人員を引き上げ運転開始後はトラブルが続発して国際社会でイギリスの原発の評判が地に落ちたこと(119~142ページ)、アメリカが日本や同盟国に供給してきた濃縮ウランの製造を一部ソ連に下請けさせていたこと(176~191ページ)など大変興味深いことが書かれています。
 日本政府が田中・ニクソン会談でアメリカから輸入を決めた濃縮ウラン1万作業トン、GEがソ連に外注した濃縮ウラン100作業トン等の評価で、作業トンと濃縮ウラン量、その規模について正しい理解をしているかやや疑問が感じられます。作業トン(tSWU)については製品濃縮度と廃品(ウラン)濃縮度によって数字が変わってややこしく私もよくわからないのですが、天然ウラン(原料ウラン7トン)を製品濃縮度3.5%の濃縮ウラン1トン(廃品濃縮度は0.25%)とするときの分離作業量は4.8tSWU、製品濃縮度を同じ3.5%としても廃品濃縮度が0.3%の時(原料ウランは7.8トン必要)は3.5%の濃縮ウラン1トンを得る分離作業量は4.3tSWU、天然ウラン(原料ウラン10トン)を製品濃縮度4.7%の濃縮ウラン1トン(廃品濃縮度は0.27%)とするときの分離作業量は7tSWUだそうです(ATOMICAより)。そして現在の標準的な原発といえる110万キロワット級原発の炉心の燃料中のウラン量は約30トンです。こういう数字を念頭に読んでみてください。


有馬哲夫 文春新書 2012年8月20日発行
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