伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ショージとタカオ

2012-10-09 00:08:34 | ノンフィクション
 布川事件(1967年に茨城県で発生した強盗殺人事件)で再審無罪判決を勝ち取った2人の元被告人の支援闘争と仮釈放から再審無罪確定までの長い道のりを収めたドキュメンタリー映画「ショージとタカオ」の監督による撮影経過のレポート。
 逮捕から仮釈放までの身柄拘束が29年、再審無罪判決確定まで44年。逮捕当時20歳と21歳だった2人は仮釈放時点で49歳と50歳、再審無罪確定時点では64歳と65歳。この本は、著者が初めて関わりを持った1994年の支援コンサートに始まり、実質的には仮釈放のところから綴られ、29年も外界から隔離されていたおっさんが普通の生活を確立するまで、生活しながら無罪をアピールする運動を続ける様子、仮釈放されているが故に支援者の抱いてきたイメージとのズレや周囲との摩擦に悩む姿などを描き続けています。きれいごとで済まない生活の確立や家族との関係など、そして仮釈放の際に獄中で出して棄却された第1次請求では諦めずに改めて再審請求することを宣言しながら実際に第2次再審請求書を提出するまでその後5年かかっていることに見られるような弁護人らの苦しみとおそらくは当事者の焦りなどの容易ではない状況を、本人の何気ない言葉や表情、家族や伴侶のインタビューで感じさせていくところにこの本の真骨頂があるように思えます。
 布川事件は、私が司法修習生になった年に、第1次の再審請求がなされ、青法協の弁護士たちが支援を訴えていた記憶があります。その頃から数えても28年。この本を読んでも再審開始までの弁護団の努力は並々ならぬものがありますし、改めて再審無罪の実現の厳しさを感じます。私が小学生の頃に道徳の授業で学校の先生から無罪だと教わった狭山事件はその後40年あまりを過ぎた今でも再審開始に至らないわけですし。


井手洋子 文藝春秋 2012年4月25日発行
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