経営危機に陥ったエステチェーンの経営者芹沢秋声が大学時代の知人榊原大悟から支援の条件として榊原が妻と離婚して若い愛人と結婚できるよう妻の冬を誘惑して榊原との別れを決意させることを求められ、最初は躊躇していた芹沢が冬にのめり込み、その後思い直した榊原との間で対立するという設定の恋愛小説。
男性作家で40近い男性芹沢の視点で書かれていることもあり、のめり込みながらも迷う歯切れの悪さと男のプライドが前に立つ印象です。芹沢の側では、誘惑し肉体関係を持ち将来を誓い合うことにはあっさり成功したものの、その後も夫と肉体関係を持ち、大悟からは婚姻中のそれ以外の男との関係を示唆され、さらにはその後も他の男と肉体関係を持ったと見られる冬の態度への嫉妬・憤慨にもだえ苦しむ様が繰り返し描かれます。このようなパターンでは、冬は「魔性の女」として描かれ、とりわけ芹沢があまりにも短期間に冬のことをよく知らないうちにのめり込み会社経営まで捨て去る決意をしたことを、熱に浮かされたあやまちとされるのが通常だと思います。タイトルもそういうものですし。普通の読者なら元カノで別れを言い渡されたにもかかわらず会社で右腕として支え続け芹沢が冬を選んだことを知ってもなお芹沢を思い続ける早苗とよりを戻すのが芹沢のベストチョイスと読むところでしょう。私もどう見てもそうだと思います。それをそう描かないところがこの作品の新しさだと思います。好きになるのに理屈はいらない、好きになっちゃったらもう仕方ないじゃないってだけですけど。「恋は期待をするもの、でも愛は期待をしちゃいけないもの」(60ページ)という言葉に殉じて愛を選ぶわけですが、ちょっと観念的に過ぎて上滑りしてる感じがぬぐえないなぁ。
最初は冬を誘惑する不純な動機への罪悪感、次は愛してしまった冬への猜疑心とその男性関係への嫉妬、大悟への対抗心とそれを支えるプライド・意地と、モテモテ男が美女に囲まれる展開を書きながらずっと重苦しさが続き、大悟の思い直しとかアルゼンチン編は連載で気が変わったような唐突感がにじみ、読後感はいまいち。
辻仁成 集英社 2012年1月10日発行
男性作家で40近い男性芹沢の視点で書かれていることもあり、のめり込みながらも迷う歯切れの悪さと男のプライドが前に立つ印象です。芹沢の側では、誘惑し肉体関係を持ち将来を誓い合うことにはあっさり成功したものの、その後も夫と肉体関係を持ち、大悟からは婚姻中のそれ以外の男との関係を示唆され、さらにはその後も他の男と肉体関係を持ったと見られる冬の態度への嫉妬・憤慨にもだえ苦しむ様が繰り返し描かれます。このようなパターンでは、冬は「魔性の女」として描かれ、とりわけ芹沢があまりにも短期間に冬のことをよく知らないうちにのめり込み会社経営まで捨て去る決意をしたことを、熱に浮かされたあやまちとされるのが通常だと思います。タイトルもそういうものですし。普通の読者なら元カノで別れを言い渡されたにもかかわらず会社で右腕として支え続け芹沢が冬を選んだことを知ってもなお芹沢を思い続ける早苗とよりを戻すのが芹沢のベストチョイスと読むところでしょう。私もどう見てもそうだと思います。それをそう描かないところがこの作品の新しさだと思います。好きになるのに理屈はいらない、好きになっちゃったらもう仕方ないじゃないってだけですけど。「恋は期待をするもの、でも愛は期待をしちゃいけないもの」(60ページ)という言葉に殉じて愛を選ぶわけですが、ちょっと観念的に過ぎて上滑りしてる感じがぬぐえないなぁ。
最初は冬を誘惑する不純な動機への罪悪感、次は愛してしまった冬への猜疑心とその男性関係への嫉妬、大悟への対抗心とそれを支えるプライド・意地と、モテモテ男が美女に囲まれる展開を書きながらずっと重苦しさが続き、大悟の思い直しとかアルゼンチン編は連載で気が変わったような唐突感がにじみ、読後感はいまいち。
辻仁成 集英社 2012年1月10日発行