伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

猿の悲しみ

2013-09-21 16:40:35 | 小説
 ムエタイ(タイ式格闘技)の達人で殺人罪で服役した経験があるシングルマザーの風町サエが、悪徳弁護士事務所の調査員として、アイドルタレントの離婚慰謝料を値切る材料に使う醜聞を探し、不可解な殺人事件の真相を探るという設定のミステリー小説。
 基本的には雇い主からせしめた調査料の金力で、裏では刑務所で習得したピッキングや性的魅力と金で引き寄せたオタクによるハッキングで情報を集めていく設定です。その違法なことも辞さない調査のハラハラ感(そんなのありかと思う「おいおい」感もありますが)と、美貌と脚線美の持ち主だが化粧がでたらめで格闘能力に裏打ちされた胆力で勝負というキャラの魅力で読ませる小説かと思います。
 弁護士に雇われた違法行為も辞さない調査員という設定は、グリシャムの小説などアメリカのリーガル・サスペンスにはときおり登場しますが、実在するんでしょうか。庶民の弁護士としては、そもそも調査員を雇う費用を負担できるような依頼者が多数いるということが想定できませんし、コスト問題を抜いても違法な調査に関与したということになれば信用やさらには弁護士資格自体にも影響しかねません。
 この小説の中での風町の雇い主の弁護士は、アイドルタレントの醜聞を手にするやそれを材料に双方の弁護士がいるのに割り込んで慰謝料なしの決着を図って3000万円の報酬を取り、過労自殺の損害賠償を値切るために死んだ労働者の弱みを調査するように求めていますので、金持ち・企業側で多額の報酬を取る弁護士のようです(勤務弁護士に過払い金請求もさせているようですが)。それでも違法な調査をすることを期待して調査させる弁護士がいるのかなぁ。
 タイトルは、風町が服役中に弁護士から差し入れられて愛読したデズモンド・モリスの「裸のサル」から得た、しょせん自分はただの猿という自戒・突き放しのフレーズによるもの。風町には猿回しの猿という思いも残ったのかもしれませんが。


樋口有介 中央公論新社 2012年9月25日発行
コメント
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