伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか

2013-09-09 21:27:37 | ノンフィクション
 共産主義の拡大の防止を最優先事項として、アメリカのトップ企業と経済エリートたちが、第2次大戦前ドイツの再軍備を推進し、戦後はドイツ企業の技術情報とナチスの科学者たちを利用して経済発展を図るとともにナチスの残党を対ソ秘密工作や共和党の活動に当たらせたことなどをレポートした本。
 第1次世界大戦とベルサイユ条約で再起不能なほどの打撃を受けたはずのドイツ産業界に対し、共産主義の拡大を封じるために強いドイツが必要だと考えたアメリカのウォール街の仕掛け人たちの手により、ドイツの賠償負担はどんどん軽くされ、多額の投資がなされてドイツ企業は合併により巨大化し、アメリカの大企業はヨーロッパでの取引やドイツの技術を求めて提携や合弁を進め、ナチスの政権奪取後も、鋼鉄やステンレス鋼製造に必要なニッケル、航空機の部品や焼夷弾に必要なマグネシウム、工作機械用カッター製造に必要な炭化タングステン、航空機燃料に不可欠のテトラエチル鉛などの軍事物資を提供していったことを論じる第1章は、タイトルに沿った読み物として一番迫力があります。
 第2章では、ヒトラーの危険性が見えてきても既に多額の投資をしてしまった以上、ドイツと戦うことで投資を無駄にしたくない産業界と、勝ち馬に乗りたい人々が大勢を占め、反ナチスはルーズベルト大統領ら一部にとどまったことが紹介されています。このあたりは、アメリカの事情は、ヒトラー・ドイツと戦争をしたくないというレベルで、タイトルから見るとちょっと論旨がぼける印象があります。
 第3章~第4章は、ヨーロッパ大陸をドイツに席巻され、アメリカを引き込まないとドイツに勝てないイギリスのチャーチルが、ルーズベルトとアメリカを対ドイツ戦争に引き込むために行った工作が紹介され、これがまたえげつなくて興味深い。チャーチルのスパイたちがアメリカのメディアに働きかけて反ナチスの記事を書かせたりハリウッドに反ナチスの映画を作らせたりしたということに加えて、最近公開されたイギリスの外交文書中にあったイギリスの特殊作戦部の書簡からイギリスの特殊作戦部がカナダで残虐行為の撮影を行ってチャーチルのスパイに提供し、それが「ナチスの残虐行為」として全米のメディアに配信されていたことがわかったと紹介されています(105~106ページ)。
 全体を通じて、アメリカの多くの政治エリート、経済エリート、トップ企業にとって、ヒトラーやナチスは共産主義者に比べれば危険とは考えられておらず、共産主義の拡大を防ぐためには独裁政権であれ支援し利用するという戦後度々見られたアメリカの外交方針は、ナチスとの関係でも既に見られ、戦前戦後を通じた一貫した手法であるということが論じられています。
 そうとりまとめてしまうと、まぁそうかなと思ってしまいますが、その一貫性よりは、対ドイツ戦争協力のディテールや親ナチスと反ナチスの陰謀合戦のあたりが読み応えがあると思いました。


菅原出 草思社文庫 2013年8月8日発行 (単行本は2002年)
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