1960年代に社会問題化し1960年代後半に次々と訴訟提起されいずれも原告側の勝訴判決が出た水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害について、発生と被害者たちの状況、原因究明と原因企業の抵抗、裁判と行政救済の経緯についてまとめた本。
最初は手足のしびれ感に始まり劇症型のものではけいれんを起こしてのたうち回り死亡する水俣病(有機水銀中毒)、骨が軟化し布団の重みでも骨折が起こり息をしても針を刺すような痛みが生じ痛い痛いと呻きながら死んでいくイタイイタイ病(カドミウム中毒)など、改めて公害被害の悲惨さを噛みしめました。
そういう被害者が多数出ているのに、こっそりと排水口を移設して被害地域を大幅に拡大し(20~21ページ)、漁民と約束して設置した浄化装置には水銀除去機能を設計上要求せずしかも問題のアセトアルデヒド製造工程の排水をその浄化装置を通さずに排水していた(29~30ページ)というチッソの悪辣さには読んでいて震えるほどの怒りを感じました。
原因企業の非人道性に加えて、通産省も犯罪的な役割を果たしています。厚生省公衆衛生局長が1958年7月に水俣病にはチッソ水俣工場の廃棄物が影響していると発表した後の1959年11月、通産省軽工業局は水銀を扱うアセトアルデヒドと塩化ビニールの製造工場に対して工場排水中の水銀の含有量や排水口付近の泥土中の水銀含有量などの調査報告をさせておきながら「この調査は、水俣病問題が政治問題化しつつある現状に鑑み、秘扱いにて行うこととしていますので、この旨御承知の上、社外に対しては勿論、社内における取扱についても十分注意して実施されるよう希望致します」として握りつぶし(81~82ページ)、新潟県衛生部長が通産省に情報を求めても文書が残っていないと退けられた(85ページ)そうです。通産省が被害防止よりも企業活動の擁護に重きを置いていること、都合の悪い文書の隠蔽に熱心なことがよくわかります。
四大公害裁判が全て原告側勝訴に終わっても、その後も行政救済の認定基準の狭さと硬直した行政の姿勢により被害者の救済が進まず、現在もなお解決されない問題が残っていることは、この本でも書かれていて、公害問題・公害病被害が終わったわけではないことを再認識できますが、本の構成としては過去の被害と原因究明、裁判と救済制度の経緯が大半を占め近年のことは少ししか触れられていません。過去のことでも読んで勉強にはなりますが、現在この本を出版する意義という観点からは現状についての記述がもう少し欲しかったなぁという気がしました。
政野淳子 中公新書 2013年10月25日発行
最初は手足のしびれ感に始まり劇症型のものではけいれんを起こしてのたうち回り死亡する水俣病(有機水銀中毒)、骨が軟化し布団の重みでも骨折が起こり息をしても針を刺すような痛みが生じ痛い痛いと呻きながら死んでいくイタイイタイ病(カドミウム中毒)など、改めて公害被害の悲惨さを噛みしめました。
そういう被害者が多数出ているのに、こっそりと排水口を移設して被害地域を大幅に拡大し(20~21ページ)、漁民と約束して設置した浄化装置には水銀除去機能を設計上要求せずしかも問題のアセトアルデヒド製造工程の排水をその浄化装置を通さずに排水していた(29~30ページ)というチッソの悪辣さには読んでいて震えるほどの怒りを感じました。
原因企業の非人道性に加えて、通産省も犯罪的な役割を果たしています。厚生省公衆衛生局長が1958年7月に水俣病にはチッソ水俣工場の廃棄物が影響していると発表した後の1959年11月、通産省軽工業局は水銀を扱うアセトアルデヒドと塩化ビニールの製造工場に対して工場排水中の水銀の含有量や排水口付近の泥土中の水銀含有量などの調査報告をさせておきながら「この調査は、水俣病問題が政治問題化しつつある現状に鑑み、秘扱いにて行うこととしていますので、この旨御承知の上、社外に対しては勿論、社内における取扱についても十分注意して実施されるよう希望致します」として握りつぶし(81~82ページ)、新潟県衛生部長が通産省に情報を求めても文書が残っていないと退けられた(85ページ)そうです。通産省が被害防止よりも企業活動の擁護に重きを置いていること、都合の悪い文書の隠蔽に熱心なことがよくわかります。
四大公害裁判が全て原告側勝訴に終わっても、その後も行政救済の認定基準の狭さと硬直した行政の姿勢により被害者の救済が進まず、現在もなお解決されない問題が残っていることは、この本でも書かれていて、公害問題・公害病被害が終わったわけではないことを再認識できますが、本の構成としては過去の被害と原因究明、裁判と救済制度の経緯が大半を占め近年のことは少ししか触れられていません。過去のことでも読んで勉強にはなりますが、現在この本を出版する意義という観点からは現状についての記述がもう少し欲しかったなぁという気がしました。
政野淳子 中公新書 2013年10月25日発行