伊東良徳の超乱読読書日記

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実務家のための労働判例読みこなし術

2013-12-26 21:57:37 | 実用書・ビジネス書
 労働事件に関する判例について分野ごとに整理して解説した本。
 「読みこなし術」というタイトルに合わせて冒頭に判決・判例の読み方について若干の解説があり、「判決文の中で結論(主文)を導いた『理屈』の部分を読み、その理屈と、前提となった事案(事実関係)とを対照させながら読みます」(29ページ)とした上で、判決の判断部分だけを読んで自分の主張と合致する部分(有利な部分)だけをピックアップするというのは危険で事実関係との関連に注意する必要がある(30ページ)としていることは、まさにその通りだと思います。一般の方は判例集とかネット掲載の判決の「判決要旨」とか判決文でアンダーラインがあるところだけを読んで、その要旨に書かれていることが常に当てはまると考えたり、自分に都合よく解釈することが、すごく多く、弁護士としてはこのことは特に強調しておきたいところです。
 しかし、「判決の評価についていうと、判決の結論・結果自体を取り上げて『不当・不合理だから誤りである』というのでは、実務家としては検討不十分」(30ページ)としていることは、一般論としてはそのご主張よくわかりますが、ここで著者がパナソニックプラズマディスプレイ事件の最高裁判決をみて『偽装請負が不当で、派遣労働者が保護されるべきだから、黙示の労働契約を否定した最高裁は誤り(これを認めた大阪高裁が正しい)』と評価するなどと例を挙げていることを見ると違和感を持ちます。この本でも例えば神戸弘陵学園事件最高裁判決など使用者側に不利な最高裁判決に対しては問題があると否定的評価を繰り返していますし、最高裁判決だからそれを前提にせざるを得ないとしつつ批判や当てこすりを述べています。
 この本では、比較的細かい論点まで判例を取り上げていて、労働事件を取り扱う弁護士が判例を勉強するときの手がかりとして使うのにはよさそうに思えます。1冊で幅広い分野を扱うことの限界で、判決の事件名と日付・掲載判例集だけで内容がまったく紹介されていなかったり、著者がそこだけ見るなという「結論だけ」の紹介のものが多いので、この本だけを読んでもわからないところが多く、気になったときにはこれを手がかりに判決文を読む、さらには判例集上の参考判例・類似判例を探してそこまで読んで初めて意味があることになるでしょうけど、そのためのインデックスとしては使えそうです。
 この本単独としては、詳しく取り上げている部分は読んでいてわりとよくわかりますが、項目と判例番号が書かれているだけという部分も多く詳しさの落差が大きいために疑問を感じながら読み流すしかないところが多々あり、特に一般の方が読み通すには辛いか著者がそうあってはならないと言っているような誤解(早のみこみ)をする可能性が高いように思えます。
 著者の意見は明らかに使用者側の立場で、取り上げる判例も、それなりには配慮されているとは思いますが、例えば期限付きの派遣労働者の期間中の派遣切りのケースで残期間の賃金が休業手当(6割)でいいか全額かという論点で、休業手当分だけでいいという三都企画建設事件大阪地裁判決だけを取り上げて反対の判例を一切取り上げずその結果反対の判例はないかのように読み取れる(292~293、301~303ページ)のは、かなり偏った姿勢だと思います(私の認識では、このパターンで公刊された判例集に掲載されている判決で休業手当相当分だけでよいとしたのはこの三都企画建設事件だけで、他の判決はいずれも賃金全額の支払を命じていると思います)。
 なお、109ページの「労働契約法13条」は労働契約法12条の誤りです。


高仲幸雄 労務行政 2013年9月26日発行
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