2人の絞殺死体を前に凶器とおぼしきザイルを首に巻いて呆然としていたという絶望的な被告人の国選弁護人となった「私」が、被告人の無罪を主張し、進行協議後の裁判官室で検察官に弁護人解任の上申書の提出と弁護人から虚偽の認否を求められたという被告人の供述調書を求めた裁判長の指示とその直後の被告人との接見を録音し、検察官の作成した弁護人から接見で嘘を言うよう求められ断ると怒鳴られたという虚偽の被告人調書を知人の新聞記者に送りつけて暴露し、その結果裁判所と検察庁、拘置所長から懲戒請求されたが弁解を拒否して業務停止1年の懲戒処分を受け、探偵見習をしているうちに新たな事件に巻き込まれ、事務所に戻りその床に無罪となったものの精神病院に強制入院させられていたはずの元被告人が絞殺死体となって転がっていたのを見た途端に殴られて気を失い気がついたら凶器とおぼしきザイルを首に巻いていたところを逮捕され…という展開のミステリー小説。
現役弁護士(経験10年あまり)による裁判官・検察官の官僚的体質と警察官の遵法意識の低さへの怒りが表されていて、法律実務業界の描写にもリアリティがあり、弁護士としてはそうそうと思う部分が多々あります。加えて、私としては司法修習時に実務修習を行った福岡市と福岡地裁・福岡県弁護士会が舞台ということで懐かしい思いで読めました。
リーガル・ミステリーとして捉えると、法廷部分での勝負ではなく、弁護士が主人公で事件に巻き込まれるという意味でのリーガル・ミステリーにとどまり、この作品では必ずしも主人公が弁護士でなくても成り立ちうるように思えます。
主人公(名前は出て来ず、最後まで「私」)の強がり・減らず口・憎まれ口が続き、良かれ悪しかれそれがこの作品の基調を決めています。私自身、特に若い頃は妥協やなれ合いを嫌うたちでしたので、この主人公の姿勢はわかる気がしますが、この作品を読んでいると、そういう態度がいかに周囲の反感を買い近しい人々さえ呆れさせるかを実感させられ、改めて身を慎まねばとも考えさせられました。
なお、作者は私より干支でひとまわりほど年下の1973年生まれのはずですが、頭が白いことを形容するのに「矢吹丈との試合を終えたホセ・メンドーサみたいだ」(293ページ)とか大きな靴を形容するのにジャイアント馬場のシューズ(220ページ)とか、経験が共通するのか高めの年齢の読者層を想定しているのか…
法坂一広 宝島社 2012年2月24日発行
第10回(2011年)「このミステリーがすごい!」大賞受賞作
現役弁護士(経験10年あまり)による裁判官・検察官の官僚的体質と警察官の遵法意識の低さへの怒りが表されていて、法律実務業界の描写にもリアリティがあり、弁護士としてはそうそうと思う部分が多々あります。加えて、私としては司法修習時に実務修習を行った福岡市と福岡地裁・福岡県弁護士会が舞台ということで懐かしい思いで読めました。
リーガル・ミステリーとして捉えると、法廷部分での勝負ではなく、弁護士が主人公で事件に巻き込まれるという意味でのリーガル・ミステリーにとどまり、この作品では必ずしも主人公が弁護士でなくても成り立ちうるように思えます。
主人公(名前は出て来ず、最後まで「私」)の強がり・減らず口・憎まれ口が続き、良かれ悪しかれそれがこの作品の基調を決めています。私自身、特に若い頃は妥協やなれ合いを嫌うたちでしたので、この主人公の姿勢はわかる気がしますが、この作品を読んでいると、そういう態度がいかに周囲の反感を買い近しい人々さえ呆れさせるかを実感させられ、改めて身を慎まねばとも考えさせられました。
なお、作者は私より干支でひとまわりほど年下の1973年生まれのはずですが、頭が白いことを形容するのに「矢吹丈との試合を終えたホセ・メンドーサみたいだ」(293ページ)とか大きな靴を形容するのにジャイアント馬場のシューズ(220ページ)とか、経験が共通するのか高めの年齢の読者層を想定しているのか…
法坂一広 宝島社 2012年2月24日発行
第10回(2011年)「このミステリーがすごい!」大賞受賞作