伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

それもまたちいさな光

2013-12-16 22:27:29 | 小説
 デザイン事務所に勤める35歳独身の悠木仁絵と親のレストランを引き継いで調理師になった幼なじみの駒場雄大のお互いにジコチュウの恋人に振り回されてから恋に臆病になった後の思い、仁絵の友人たちで初の海外での個展が決まった田河珠子の既に追い越してしまった感のある男との恋の亀裂、編集者の長谷鹿ノ子の不倫の恋とその相手の入院、そして登場人物が様々な生活の場面で聞いているラジオ番組のパーソナリティ竜胆美帆子の夫との関係を絡ませていく恋愛小説。
 主人公の仁絵の語りで、子どもの頃からのばかげたことを知り尽くしている幼なじみと結婚できるか、ときめき見つめ合った初期がない相手と「生活」をやっていけるか、さらにはそういう相手に欲情できるかということが問われています。勢いとかタイミングの問題はあるでしょうけど、好きになったらばかげたこともただ微笑ましい想い出になっていくと思いますし、安心感と欲情は矛盾しないと思いますけどね。
 不倫相手の入院で改めて相手との関係、妻との関係を問い直し感情を整理していく鹿ノ子の思いもなかなかに切ない。
 そういう好きな相手を思う心情をそれぞれのシチュエーションで考え味わってちょっと切なかったり暖かく思ったりするタイプの作品です。設定が20代じゃなくて30代半ばというのが、そうするともう少し上の年齢にも考えを及ぼしやすくて、おじさん読者にはありがたく思えました。


角田光代 文春文庫 2012年5月10日発行
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さよなら渓谷

2013-12-16 07:57:52 | 小説
 息子殺しの容疑を受けた立花里美を追う週刊誌記者渡辺が、逮捕された里美の隣人の尾崎俊介に関心を持ち尾が学生時代に犯した集団レイプ事件を知りその被害者水谷夏美が就職先でレイプ事件を知られて転職し結婚後夫のDVで入院を繰り返し自殺未遂を繰り返した後失踪していることを突き止め、尾に迫るという展開の小説。
 2013年に映画化され(2013年6月22日公開)、映画の方を先に見ました。映画を見たときに、その後紆余曲折を経たとしても、レイプ事件の被害者が加害者とセックスする、被害者が加害者に欲情するという点にどうしても納得できず、また興味本位の報道のために人の過去を調査し暴き続けまったく反省の様子もない雑誌記者の様子に嫌悪感を持ちました。
 この作品では、この被害者の心の傷はレイプ自体よりもその後レイプを知られそれにより態度を変える男たちによって与えられている、それもこれもレイプ事件の存在故だから加害者を憎み「私より不幸になるなさいよ!私の前で苦しんでよ!」(172ページ)というものの、レイプ事件を知られることに脅え夜に付いていった自分を許してくれる人を求めるうち加害者といることで安心するという説明がなされています。レイプそのものよりも2次被害での傷の方が大きいという考えを前提にすれば、そういう心情もありうるのかもしれませんし、作者は人間という存在の複雑さを描きたかったのかもしれません。また、2次被害が告発対象とすれば、記者側は無自覚な様子を読者にさらした方がいいのかも知れません。
 しかし、もし被害者がそのような心情を持つに至るとしてもそれは周囲から深く傷つけられた故で、被害者をそこまで追い込んでしまう社会・マスコミの問題が問われるべきだと思いますが、この作品では加害者が負った十字架と加害者側のある種潔さというか献身的な姿勢が描かれ、被害者の選択にも被害者の心情の変化が示唆され、加害者と被害者の個人的な選択の問題に視線が向けられるようになっているように思えます。被害者が2次被害故に加害者と暮らせるかという点も含め、やはり違和感が残りました。


吉田修一 新潮社 2008年6月20日発行
映画の感想はこちら
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