伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

逃亡小説集

2020-09-19 22:07:08 | 小説
 市役所での対応にいらだって市役所の駐車場を出てすぐ一方通行を間違って逆走し警察官に見つかって質問されるうちに嫌気がさしてそのまま車を発進させて逃亡した男の思いを描く「逃げろ九州男児」、高校生男子とその中学のときの担任女性教師の交際と逃避行を交換日記を通じて描いた「逃げろ純愛」、大麻使用疑惑を受けて逃走中の元アイドル歌手とそれをドッキリカメラと誤信し続ける元アイドルの大ファンだった山奥の温泉宿経営者のドタバタを描く「逃げろお嬢さん」、行方をくらませた日本郵便の下請け会社の運転手のゆくえと失踪の動機を追う「逃げろミスター・ポストマン」の4編からなる短編集。
 これら4編の中では、2者の視点が交錯する「逃げろ純愛」が、微笑ましい内容と相まってよい読み味を出していると思いました。
 逃げろ九州男児で、主人公の叔父が死亡した交通事故についての「裁判」が話題になっています。「被告人が」と言っている(46ページ)のですから、刑事裁判だと思うのですが(民事裁判なら訴えられた人は被告人ではなく、被告です)、「頼りにしていた弁護士は」「裁判のやり直しには腰が重い」(47ページ)とされています。刑事裁判なら被告人に有利な判決(被害者に不本意な判決)が出たときに控訴するのは検察官であって、弁護士が控訴をするというわけではありません。主人公のいらだちの原因となる市役所の対応が詳しく書かれないのも、人間が些細なことで暴走するその性を書きたいのかも知れませんが、こういう粗さがあると、ただ雑に書いてるんじゃないかというふうに読めてしまいます。「逃げろお嬢さん」のいかにものりピーの事件を使った安易さ加減も続けて読むことになるわけですし。


吉田修一 角川書店2019年10月4日発行
コメント
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