食事や本、映画、スポーツ中継等の娯楽は提供され、職員が入居者の健康状態を把握して対応してくれるが、職員は日本語を話さず入居者からのコミュニケーションは取れず、ソフトに管理されて外出はできない施設に入居している脚力の弱った老人サブロウが、自分が入居した経緯等についてどうしても思い出せず、他の入居者も同様であることに疑問を感じて、職員の目をかいくぐって脱出を試みるという展開の小説。
入居に至る経緯の記憶がなく、脱出方法についてのヒントのような印や道具が自分の身近に隠されていることをめぐっての検討や推理を重ねる前半は、ある種のミステリーになっていて、楽しく読めます。
他方で、施設に関する謎の部分というか、世界の設定は、ちょっと大がかりに過ぎる(だからSFと位置づけたのですが)ように思えますし、論理を弄んでいる感じで、私には読み味を悪くしているように感じられました。
「未来からの脱出」というタイトルは、主人公が「未来から」脱出しようとしているとは読めませんし、脱出しようとしているとすれば今ある未来から別の未来へということでしょうから行こうとする先もまた「未来」なわけで、この作品の内容にはそぐわないと思いました。
小林泰三 角川書店 2020年8月26日発行
「カドブンノベル」連載
入居に至る経緯の記憶がなく、脱出方法についてのヒントのような印や道具が自分の身近に隠されていることをめぐっての検討や推理を重ねる前半は、ある種のミステリーになっていて、楽しく読めます。
他方で、施設に関する謎の部分というか、世界の設定は、ちょっと大がかりに過ぎる(だからSFと位置づけたのですが)ように思えますし、論理を弄んでいる感じで、私には読み味を悪くしているように感じられました。
「未来からの脱出」というタイトルは、主人公が「未来から」脱出しようとしているとは読めませんし、脱出しようとしているとすれば今ある未来から別の未来へということでしょうから行こうとする先もまた「未来」なわけで、この作品の内容にはそぐわないと思いました。
小林泰三 角川書店 2020年8月26日発行
「カドブンノベル」連載