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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

植物のいのち からだを守り、子孫につなぐ驚きのしくみ

2021-08-19 21:53:24 | 自然科学・工学系
 植物が自らの命を長らえ、繁殖する様子と仕組みについて解説した本。
 植物が他者との交配によって多様性のある子孫(種)を作る仕組みとして、1つの花の中のおしべとめしべが熟する時期が違う(雌雄異熟:そのためめしべは別の花の花粉を受粉し、おしべの花粉は別の花のめしべに付く)、自家受粉の場合はめしべに付いた花粉は花粉管を伸ばせない(自家不和合性)などがあるそうです(132~138ページ)。花の構造を見ると、自家受粉の方がふつうに起こりそうですが、そういうことがあるのですね。
 もちろん、すべての植物で、他者との交配が支配的というわけではなくて、花がしおれるときに自家受精する仕組みになっている植物(他者との交配ができないときには自家受精して種を作るという仕組み)や、最初から自家受精する仕組みの花、単為生殖や無性生殖をする植物も多数あると説明されています(143~167ページ)。人間が食料として栽培するものでは、接ぎ木や球根栽培などの無性生殖が利用されることが多いのだそうです。要するに他者と交配するとせっかく品種改良で人間にとって都合のいい性質を揃えているのに、それと違うものができてしまうからです。チューリップを種から栽培すると栽培に時間がかかる上に自家不和合性があるので自家受粉できず花の色や形等がバラバラになってしまうので、種ではなく球根から栽培する、イチゴを種(イチゴの表面にあるつぶつぶが「果実」で、種はその中にあるそうです)で育てるとやはり味が違うものになってしまうので、匍匐茎(ランナー)と呼ばれる茎を採ってそれを植えて育てるなどが紹介されています(162~167ページ)。
 近年の私の好物のキウイフルーツについて、雌雄異株で(129ページ、140~141ページ:そうすると、商品としては同じ味を出し続けるのは何か工夫がいるのでしょうね)、タンパク質を分解するアクチニジンとシュウ酸カルシウムの針状の結晶によって虫等にたべられることを防いでいる(だからたくさん食べると舌がチクチクするって。私はそういう思いをした覚えがないのですが・・・舌が鈍感?)(107~109ページ)ことが説明されています。興味深いところです。
 進化論がらみの話を書いている本の多くで見られるのですが、植物が自分の意思でそうしているとかそういう戦略を持っているという類いの表現が多く見られます。「果実をつくる植物たちは、『動物に果実を食べてほしい』と思っているはずです。そのために、おいしい果実を準備するのです」(58ページ)、「いろいろな性質を持った子どもをつくるために、オスとメスに性が分かれた多くの植物は、自分のメシベに他の株に咲く花の花粉をつけようとします」(131ページ)などなど。子どもが生まれるに際しての突然変異で様々な性質の子どもが併存する中で、生存と繁殖に有利な性質を持った者が次世代で多く子孫を残し、結局、現在そういう形質の者が生き残り繁栄しているというのが進化論の説明のはずで、生物個々の意思やましてや集団的意思のようなものによって左右される話じゃないと思うのですが。


田中修 中公新書 2021年5月25日発行
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