伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

ぼくはなにいろ

2023-04-25 22:32:31 | 小説
 交通事故で父を失いそのときに自らも重傷を負って全身の傷跡と右手右脚に障害を残して以来自分は化け物だと考えて人目を避け孤独に生きてきて、今は中学時代の同級生でわがままな元ボクサーの崎田と組んで崎田にいじめられながら清掃の仕事をこなす20歳の祥司と、高1の時に憧れていた男が友人と自分の裸や胸を話題にした挙げ句あいつ確実に自分のこと好きだから告ればイチコロ明日にでも裸を見てきてやるなどと言っているのを聞いて衝撃を受けてそれから男と性的接触を持てなくなり今は東京の洋食店でデザート作りの仕事をしている20歳の美少女鈴村千尋、福岡でワーカホリックの父と2人暮らしで学校に行けなくなり地元の文房具店に通って一日ノートに絵を描き続ける太り気味を気にする中2の鈴村絵美と、絵美に一日の学校の様子を毎日手紙に書いて文房具店に届ける言葉が喋れない少年中谷清正が、思いを寄せ合う経緯と日常を描いた青春純愛小説。
 障害を負い全身に傷を負って外見やスペックに自信が持てない祥司と、外見を見て言い寄る男たちに辟易しまた男と交われない触れ合えない千尋という設定に典型的に見られるように、外見で人を判断してはいけない、中身が大事だという主張を出しつつ、しかし、では自分は相手にそれを貫けているのか、自分は相手を幸せにできるか、自分は幸せになっていいのかと反問し煩悶する姿が悩ましくも美しい作品です。
 重いテーマなのですが、イケメンでモテ男(被害者の会会員が8名いるとか)だが中身がない文房具店主の息子で店番の糸原孝志朗が舞台回し的に出てくるという設定もあってか、ジュンブンガク的な雰囲気ではないふつうの青春小説のタッチで展開し、読みやすい純愛小説になっていると思います。男に触れられそうになるだけで拒絶反応に至る千尋が、祥司とまぐわうシーン(169~176ページ)の奇跡的な美しさ(作者はむしろきれいにしたくなくて千尋の過去の悲惨な体験を入れ込んでいるのだと思うのですが、千尋がそれを思い出しながら乗り越えて行く様に私は美しさを感じました)に、思わず涙してしまいました。それは男の読み手の願望的なものもあってのことかもしれません(障害者が複数登場するのにそれがすべて男なのは何故か、女性の障害者には目を向けなくていいのかという疑問を提起することはでき、そこに限界があるのだとは思います)が、私にはこれまで読んだベッドシーンの中で1、2を争うものに思えました。
 新人のデビュー2作目ですが、私的にはちょっといろいろな人に薦めてみたい小説です。


黒田小暑 小学館 2023年1月22日発行
コメント
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