伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

痛みの心理学 感情として痛みを理解する

2023-06-02 23:09:02 | 自然科学・工学系
 痛みについて、主として脳科学的な見地から、痛みの認識・感じ方への心理的な影響、月経周期と痛み(痛覚感受性)の変化、新生児の痛み、アロマセラピー・リラクセーションの効果、他者の痛みを癒やしたいという心理の根拠、痛みの緩和・痛みに対する耐性を得る手法等を論じた本。
 痛みは感覚と言うよりも「感情」であるということが編者の主張として最初に説明され、現実に痛みを感じたときと痛みを想像したとき(痛そうな画像を見せたとき)の脳活動(脳画像上活発化した部位)が概ね共通している(14~16ページ)、予期(予測)した痛みの程度が小さい(小さな痛みが来ると思い込んでいる)ときには実際の刺激に対応する痛みより小さな痛みを感じる(26~31ページ)、痛みを受けた後の鎮痛は実際の刺激の低下と関係なく刺激が終わるという認識に依存する(31~35ページ)などの実験・研究成果が説明され、なるほどと思いました。もっとも、fMRIによる脳画像は脳の血流が増大していることを示しているもので、それをどう評価すべきかは慎重な検討を要すると考えられますし、被験者が感じる痛みは被験者の申告によっていますので被験者が実際に感じた痛みと申告した痛みが一致しているのかという問題も検討すべきように思えますが。
 「まえがき」で編者は「本書『痛みの心理学――感情としての痛みを理解する』が画期的なところは、そうした疑問にさまざまな角度で答え、日常場面で使えるさまざまな処方箋を示していることである」と自負しています。編者が第9章で「痛みに強い脳をつくる」と題して述べているところでは、ネガティブな感情を抑えつけて表出を抑制するのではなく痛みをより客観視し自身の感情にとってより負荷の少ない意味で受け入れる(認知再評価)、運動療法を行うということが書かれているくらいです。これで「画期的」と言えるほどの処方箋を示しているとは、私には思えないのですが。


荻野祐一編 誠信書房 2023年3月15日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする