伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

世界は「 」を秘めている

2023-06-03 23:24:11 | 小説
 いつもダボッとしたトップスと細身のパンツ、ハイカットのスニーカーで過ごす周りからはクールで大人びていると見られている玉川つばさが、自分では好きなものがなく選ぶのが面倒だからと同じようなものを身につけ選択肢が与えられたら迷わず最初の方を即決しているだけで「自分がない」と悩んでいたところ、小学校の卒業式の日に初めて口をきいた同級生の雨宮凪良が海辺をカラフルな服を着て化粧をしハイヒールを履いて散歩しているのを見かけ、「似合ってる、ね」と声をかけたのをきっかけに仲良くなり、他方小学校からの親友の小羽からは悪い噂があるから付き合わない方がいいと言われるなどして悩み…という青春小説。
 同じ作者の「世界は『 』で満ちている」「世界は『 』で沈んでいく」があり、『 』シリーズ3作目という位置づけかとも思われますが、共通点は海辺に近い町の中学生の話であること、前の話に出てきた不良グループと噂される男子(和久井将暉、宇賀田悠真)が名前だけ登場することくらいで、連続性はほとんど感じられません。前2作では主人公が前半では観念的で拗くれた言動に走る点が共通していたのですが、今作はそういうこともありません。
 主人公が、小学校時代スカートをはかず、母親がイヤなことはしなくていい、無理するなと口癖のように気を遣っているという設定が、トラウマや観念的な信条という方向で描かれるのかと思ったのですが、玉川つばさはとてもまっすぐで純情な拗くれたところのない人柄で、最後まで清々しい思いで読めました。人間には裏や醜いところがあるのが当然でそれが描かれていないのは嘘くさいという考えを信奉しこだわっているのでなければ、爽やかに読めていい作品だと思います。


櫻いいよ PHP研究所 2023年2月27日発行
コメント
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