ドイツ南西部の町フライブルグからベルリンに引っ越した後大学に職を得て日本に帰国した夫早瀬と別れてベルリンに残って10年になり、CDプレイヤーや炊飯器などの家電と関西弁で会話している高津目美砂が、親友のスージーの紹介でベルリンのより治安の良い地域に引越をして、隣に住む老人と話すようになり、誘われて太極拳の教室に通うようになり、そこで知り合った人々交流する様子を描いた小説。
タイトルは、太極拳の教室で習う型の名称から。
主人公は翻訳の仕事をしていて、この作品の期間中ずっとクライストの「ロカルノの女乞食」という3ページに収まってしまう短編を訳し、それをめぐる考察や、隣人が「プルーセン人」(プロイセン人とは別)という消えてしまった人たちが祖先と言うのでそれを調べて民族問題を考えるというようなことが、主人公の頭にあり続けます。大学教授から頼まれた旧東ドイツでの日常生活に関する資料の翻訳では、「ポルノ」という項目があるのを見てその部分を早く読みたくてその前は速歩ですませ(36ページ、124ページ)、書店の店主に掛け軸の翻訳を頼まれて杜甫の「春望」(国破れて山河あり…)とわかり高校の時に漢文の成績がよくなかったと思い出し、岩波漢和辞典を引きながら訳して自信を持てず誤訳かも知れないと断って訳文を送る(51~53ページ:依頼者は詩の内容が知りたいというだけですから、有名な漢詩なのでネットで十分に訳文が見つかり、それを教えてあげれば済むでしょうに)という主人公の人柄に親しみを感じることができれば、その心情をじんわりと味わえるというところでしょう。
多和田葉子 朝日新聞出版 2023年5月30日発行
「朝日新聞」連載
タイトルは、太極拳の教室で習う型の名称から。
主人公は翻訳の仕事をしていて、この作品の期間中ずっとクライストの「ロカルノの女乞食」という3ページに収まってしまう短編を訳し、それをめぐる考察や、隣人が「プルーセン人」(プロイセン人とは別)という消えてしまった人たちが祖先と言うのでそれを調べて民族問題を考えるというようなことが、主人公の頭にあり続けます。大学教授から頼まれた旧東ドイツでの日常生活に関する資料の翻訳では、「ポルノ」という項目があるのを見てその部分を早く読みたくてその前は速歩ですませ(36ページ、124ページ)、書店の店主に掛け軸の翻訳を頼まれて杜甫の「春望」(国破れて山河あり…)とわかり高校の時に漢文の成績がよくなかったと思い出し、岩波漢和辞典を引きながら訳して自信を持てず誤訳かも知れないと断って訳文を送る(51~53ページ:依頼者は詩の内容が知りたいというだけですから、有名な漢詩なのでネットで十分に訳文が見つかり、それを教えてあげれば済むでしょうに)という主人公の人柄に親しみを感じることができれば、その心情をじんわりと味わえるというところでしょう。
多和田葉子 朝日新聞出版 2023年5月30日発行
「朝日新聞」連載