伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

去年の雪

2024-01-26 00:54:16 | 小説
 多数の人々(死者やさらには人間以外のものも含む)の生活の断片を紡いだ実験的な小説。
 109名+猫1匹+それ+別のそれを話者(視点者)とする1ページから6ページのエピソード123編が続いています。次々と話者・登場人物が変わっていくのを、最初のうちは、通常の群像劇のように、数組出たらまた最初の人たちの続きが出てくるかと思って読んでいたのですが、ときにそのエピソード内の別の登場人物が話者となることがあっても、それが繰り返されるというのでもなく、全然別の新しい話者が登場し続け、段々とこれは何なのだろうと不審に思います。そう思ったところで、68ページで初めて同じ話者(柳)が2回目に登場し、ようやく普通のパターンになるかと思うとそうでもなかったりします。作者の中では何らかの規則や流れがあるのかもしれませんが、読む側には最後まで規則性が感じられずに、オチもつけられないままに終わったという印象です。
 同じ話者の話は、過去の時代(平安時代とも江戸時代とも…)の柳(27~29ページ、68~70ページ、119~124ページ、240~244ページ)、綾(88~90ページ、131~134ページ)、勢喜(107~109ページ、170~173ページ)、加代(230~233ページ、259~261ページ)、死者の霊の市岡謙人(5ページ、138~140ページ、190~191ページ、261~263ページ)、佐々木泰三(75~78ページ、138ページ、217~220ページ)があるだけで、現在を生きている者は重ねて話者にはならないというルールがあるのかもしれません。他方で、猫や何者かもわからない「それ」が話者となり、死者の霊が語り、異なる時代のエピソード間で音が交信したりものが移動するというパラレルワールドなのかテレポーテーションなのかという事態も特段の説明なく登場します。そういうことからすると、むしろ作者の思いつくままの自由な語りを、規則性を詮索することなく受け入れるというのが、たぶん正しい読み方なのでしょう。
 通常のストーリーのある小説ではないということを受け入れてしまえば、作者の語り口の巧みさと感性から、不快感は特になく読める、不思議な読み味の作品です。


江國香織 角川書店 2020年2月28日発行
「小説野性時代」連載

コメント
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