大本営発表の教訓に学ぶ:あるいは「共同正犯」的なマスコミの役割について

2023-03-08 11:29:29 | 歴史系

 

「マスコミの戦争責任について:満州事変、発行部数、ポピュリズム」という記事で、先の大戦においてはマスコミが「政府や軍部の一方的な被害者」だったなんてことはありえず、特に「15年戦争」の入口にあたる満州事変においては、むしろその勃発や拡大を煽ったことを指摘した。確かに、政府による紙を脅しの材料とした報道内容のコントールなど状況の変化もあるが、どう贔屓目に見ても「共同正犯」ぐらいが関の山だろう。

 

さて、今回の動画は大本営発表とその性質の変化についてだが、これを見ると「なぜ一度まずい状況になるとそれをリカバリーするのが難しいのか」がよくわかる。例えば敗戦など厳しい状況になった時、ありのままを話すという選択肢がある。しかし、「不都合な真実」を正直に述べたところで、よくぞ言ったと賞賛されるどころか、不安になった国民には突き上げを食らい、余計な事言いやがってと政治家や官僚に顰蹙を買うのであれば、「物言えば唇寒し秋の風」ではないけれども、適当なことを言って頑張ってるフリをするのが最も合理的な選択ということになる(という理由付けで自己正当化もしてみたり)。そして嘘と同じで一回手を染めると止まらなくなり、辻褄合わせのためにそれをやり続けることになって、面子を保つため目的のその場しのぎの行動が習慣化し、そこに「戦場の霧」も相まってズレた現状認識の集合がどんどん取り返しのつかない方向へと集団をいざなっていくのである。

 

まあノモンハンにしてからが現場の指揮官たちに実質的な自決の強要を行い事態を隠蔽したわけだし(ソ連側にもそれなりに打撃は与えていたのだが)、そもそも仮想敵国との戦争をシミュレーションする際にも「物量的にアメリカには勝てない」と経済官僚たちが分析したデータに基づいて公に発言してしまえば「敗北主義者」のレッテルを貼られてしまうので、「半年の間なら暴れてみせるっす!(勝てるとは言ってない)」というような迷言が炸裂することになる(というのが片山杜秀の『未完のファシズム』で語られていたことだ)。

 

とはいえ、動画主も言及するように、敗戦濃厚になった場合の隠ぺいについては程度の差があるだけで、どの地域や時代にも見られる現象という点は理解しておくべきだろう。このことに関して、以下少し述べてみたい。

 

そもそも、こういった傾向は今日の政府や企業でもよくに見られるもので、だからこそチェックアンドバランスが重要だという話にもなる。「よく見られる」理由はそれほど難しい話ではない。そこには体面を保つ(保身)といった要素はもちろんあるが、それに加えて、人間というものがしばしば具体的なデータに基づいた蓋然性は高いが深刻な未来予測より、根拠薄弱で曖昧でも可能性を感じられる展望に引き寄せられがちだからだ(cf.認知的不協和や正常性バイアス。より具体的な例では、「茹でガエル現象」もその一種と言える)。

 

あるいは、それと逆に「一億総玉砕」や「日本は終わり」のごとき極端な破滅系の説に飛躍することもある。これを「不安感情→極端でわかりやすいものへの飛びつき」と一般化するなら、疫病流行→宗教への傾倒災害→虐殺という流れや、宗教戦争と魔女狩り、あるいは没落中間層がファシズムに飛びついたナチスドイツ、グローバル化(過剰流動化)が生活世界を激変させていることに由来する排外主義(トランプ現象やFNの躍進、東欧の極右政党の躍進)etc...といった具合に様々な事例が想起されることだろう。

 

ともあれ、こういった一般性を踏まえずに、ただ日本の一時期の特殊現象のようにとらえるのは、問題設定として不正確なだけでなく、対策をせず放置してしまうことに繋がる「ネガティブ系島国根性」(脱亜入欧的オリエンタリズムの変奏)として避けるべきと言えるだろう。

 

それを踏まえると、本動画でも述べられるマスコミの動静を見た時、現在の大手マスメディアは記者クラブ制度やクロスオーナーシップ制度の存在によっていわば「既得権益集団」となり、かつそれを守るための官僚組織と化している現在の状況は極めて危険だとも感じた(まあ「官僚組織」であるため自浄作用には期待できないから、突き上げによってどんどん死に体に向かっていただくしかないのが現状、というのが何とも厳しいところだが。大規模な取材とかを考えれば、存在しないと困るんだけどねえ・・・)。

 

結論。
問題が起こった時、それを悪魔化して自分と切り離すのではなく、教訓として活かすためには背景を知ることが必要不可欠である(だからこそ、何度も言うように、巷間語られる自己責任論の大半は「切り離しによる思考停止の産物」で有害無益という話なのだが)。その意味で、今回の動画は非常にインストラクティブな入門編として紹介させてもらった次第である。


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