Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

九州少年

2013-02-01 | 読書
甲斐バンドを初めて聴いたのは小学校高学年(詳しくはこちら)。きっかけは大ヒット曲「HERO(ヒーローになるとき、それは今)」。以来、ずっと聴き続けている僕の音楽史ではまさに原点でもある。ロックなんだけど歌謡曲に通ずる絶妙なバランス、歌詞に歌われる大人の男と女の姿。それをマセガキはカッコいいと思ったし、憧れた。でも甲斐よしひろから僕が教わったのは、歌を通じてだけではなかった。NHK-FMの「サウンドストリート」を毎週聴いていた僕。甲斐さんの口にするカッコいい言葉や、流す音楽、迎えるゲストの方々を通じて音楽を通じて、僕が考える大人の世界はどんどん広がっていった。

中学生の頃、繰り返し読んだのが自叙伝「荒馬のように」。貧しかった少年時代、デビューまでの博多のミュージックシーン、デビューしてからの平坦ではない道のり、ライブバンドとしての成功。それらは僕に世の中について考えさせるきっかけになったし、物事を成し遂げることの難しさも学んだ。そして価値観めいた文章も、それからの僕に大きな影響を与えることになる。

たくさんの本を読むことも必要かもしれない
いろんな人に会って話することも大切かもしれない
でも俺は 一冊の本を深く読む人生でありたいし、
ひとりの人間を深く愛し続ける男でありたい


この一文にシビれた。え?だから学生時代に友達が少なかったって?そんなことはないけど。今じゃそれなりに顔が広くなって、友達も知り合いもいっぱいできて、本もたくさん読んできた。けれどそれは年齢を重ねたから。今だったら、この言葉は、物の考え方や人を大切に思うことが重要なのだ、という意味に感じられる。別に排他的な生き方をしろって意味じゃない。

中学高校時代の僕に「荒馬のように」は大切な一冊だ。居間に置き忘れていたら、ある晩母親がこの本を手にして「私も読んだ。苦労を知ってるから、この人はいい歌をかけるんやね。」と言った。理解してくれる人がいるのが、なんか嬉しかったっけ。

「九州少年」は、甲斐さんが西日本新聞に連載した自叙伝風コラムをまとめたもの。福岡を出るまでの出来事や好きだったことが綴られている。特に家族のエピソードは「荒馬のように」よりも深く掘り下げられている。「荒馬のように」でも兄弟が母親には迷惑をかけまいと頑張ってきた様子が描かれていたけれど、「九州少年」は短いエピソードが積み重ねられていて、それぞれが生き生きしている。新聞という媒介をステージに演じられた、コラムという名の楽曲たち。甲斐さんの歌詞にもこれまでも泣かされたり、勇気づけられたりしてきた。ここで綴られる言葉もそれぞれがいい響きだ(江國香織の解説にも納得)。映画やテレビに関する思い入れはそもそも強い人だと思っていたけれど、そのルーツも読むことができる。この人でないと「ポップコーンをほおばって」は歌えないよな。


コメント
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