■「グッバイ、レーニン!/Good Bye Lenin!」(2003年・ドイツ)
●2004年セザール賞 最優秀EU映画賞
●2004年ヨーロッパ映画賞 作品賞・主演男優賞・脚本賞他
監督=ヴォルフガング・ベッカー
主演=ダニエル・ブリュール カトリーン・サーズ チュルバン・ハマートヴァ
大学時代に、熊本市立図書館で催された「ベルリン・シネマ・ウィーク」と題された上映会に足を運んだことがある。もちろん壁が崩れる前だ。そこで観た映画はすべて日本未公開作ばかり。派手なスターも名の知れた監督もなかったが、僕はスクリーンに映し出された異国の現実に釘付けになった。そこに描かれていたのは、今まで知らなかったドイツ人の本音。同じ民族が東西に分かれたという悲劇の下なれど、やはり人間は人間。車のトランクに隠れて国境を越え、西側でデートする女の子。何をするにも時間がかかる東側の生活事情。西と東のカルチャーギャップ。ナチス時代の子供たち。壁で隔てられた街で、それでも人間は健気に生きている。何よりもそれが強く印象に残った。
壁が崩壊した後の現在。統一後のドイツでは東西経済格差が問題・・・などと教科書的には言われている。この「グッバイ、レーニン」でも東ドイツに急速に資本主義経済が押し寄せてくる様子が描かれている。すみずみに生活の変化が感じられて実に興味深い。この映画のラストは母親の”愛した東ドイツという社会主義国”を称えるエピソードで幕を下ろす。だが、それは社会主義そのものを称えるのとは違う。社会主義教育に没頭した母が理想とした東ドイツを、主人公アレックスが自分の思いを込めてでっちあげたもの。政治的なことよりも、この映画のテーマは母親への愛情という世界共通のこと。壁の崩壊を知らずに昏睡していた母親。精神的なショックを与えないために、息子ら家族は右往左往する。その様が何ともおかしいのだけれど、それもみんな愛のせい。最期に息子が大嘘をついて親と子の関係が深まって・・・おぉ!今年まさにティム・バートンが「ビッグ・フィッシュ」で扱ったことではないか!。
ヘリで輸送されるレーニン像を呆然と見上げる母親の表情、廃墟となった建物で二人が見上げる夜空、少年時代のエピソードや劇中登場する可愛らしいアニメーション。映画狂の友達がウンチクを語るところもおかしかった。父親の家で再会する夜、憧れだった元宇宙飛行士と出会うエピソードも、厳しい現実とファンタジーが同居する印象的なシーンだ。そしてそれらを飾る「アメリ」のヤン・ティルセンの音楽がまた素晴らしい。政治はいろいろあるけれど、それでも人は皆一所懸命生きている。それは何も変わらない。チェコ映画のヤン・スビエラーク監督作が好きな僕だけど、それらと共通する感動がこの映画にはある。予告編でビビッ!ときた予感を裏切らない秀作でした。いや~劇場で観られてよかった!。
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