■「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」(2001年・日本)
監督=原恵一
声の出演=矢島晶子 ならはしみき 津嘉山正種
「クレヨンしんちゃん」シリーズの最高傑作と名高い第9作。今まで断片的に観ていて、すごい作品なのはわかっていたけど、子供と一緒じゃなくて改めてじっくり観てみたかったのだ。いや、やっぱりすごいわ、この映画。一人でじっくり観たら心底泣けた(いい年しておバカな)。本格時代劇に挑んだ第10作「戦国大合戦」も完成度の高い傑作。だけど「オトナ帝国」は本来のファミリームービーのフィールドで最大限のチャレンジだったと思うのだ。これを劇場で観たら腰抜かしてただろうな。
20世紀博なるイベントに大人たちは懐かしさで夢中になっていた。しかしそこは”イエスタデイ・ワンス・モア”を名乗る集団の拠点であり、彼らは日本を懐かしさで満たして20世紀に引き戻そうとしているのであった!。未来をつかむべく我らが野原一家が大活躍するというお話。銀幕のこちら側でも”懐かしさ”に大人たちは踊らされている(僕もそうした流れに巻き込まれている一人だ)。アクション仮面のビデオを見せずに往年のヒーローものを見て一人喜んでいるひろしの姿は、そんな僕らをあざ笑っているかのようではないか。当然次々に懐かしいフレーズや音楽が流れてくる。70年代にどっぷりリアルタイムでない世代にしてもその雰囲気は十分に伝わることだろう。それに悪役ケンの声に津嘉山正種を充てる見事さ!。これを鑑賞する大人たちは、あの声を聞くだけで、もう”クロスオーバーイレブン”の頃の自分に戻されてしまう。あの声で「今の日本にあるのは、汚い金と燃えないゴミくらいだ」と言われたら、もう納得しちゃうんだよね。そして20世紀博の”匂い”に取り憑かれた大人たちは子供を置いて町を去っていく。この辺りの描写はまるで侵略SFの雰囲気だ(ここは子供にとってはかなり怖いらしく、うちの子は「オトナ帝国」は嫌いだと言う)。
しかし忘れちゃいけない。この映画最大の魅力はファミリームービーであることなのだ。野原一家の家族の絆が随所に感動的に描かれ、泣かせる台詞が次々と出てくる。「オレの人生はつまらなくなんかないゾ!」と叫ぶひろし、クリフハンガー状態でひまわりを守る決死のみさえ。ひろしの回想シーン、僕はもう泣かずにはいられなかった。つーか子を持つ父親はこれ見たらたまらんだろう。「オラがわかる?」って子供に抱きつかれてごらんよ・・・これ書いていてまた泣けてきた(爆)。そしてクライマックス。傷だらけのしんちゃんの叫び。「オラはおとなになりたいんだゾ!」・・・もう我慢できなかったよ。一人でこれ見て泣いている僕の姿を、うちの家族はどう思っただろね?。いいの、いいの。これ見て家族のありがたみを再度噛みしめた人、絶対いるはずだもん!。
話は変わるけど、ハリウッドでさえリメイク流行りの時代。リトールドの時代として温故知新的発想で考えれば肯定されるものだろう。でもね、この映画が言うように懐かしさに浸っているだけでは未来はないんだよ。ラストに流れた ♪今日までそして明日から(吉田拓郎) と ♪元気でいてね(こばやしさちこ) を聴きながらそこまで考えてしまった僕でした。アツくなりすぎ?