■「快盗ブラック・タイガー/Tears Of The Black Tiger」(2000年・タイ)
監督=ウィシット・サーサナティヤン
主演=チャッチャイ・ガムーサン ステラ・マールギー スパコン・ギッスワーン
こ、こ、これは面白い!。カンヌに正式出品もされたメイド・イン・タイランドの大活劇(タイからの出品はこれが初めて)。西部劇調の演出に切ない悲恋物語も織り込まれ、映画の楽しさが凝縮されたエンターテイメント。見終わったらもうお腹いっぱいだ。監督はこれがデビュー作となるそうだが、独特の色彩感とスピード感にグイグイ引き込まれてしまう。美しい緑の風景に赤い屋根が印象的なオープニングや、ピンク色の豪邸など、元来ビビッドな色彩がわざと発色を抑えて撮られ、往年の”天然色映画”の雰囲気を出したのは見事。さらに主人公ダムが一人ハーモニカを奏でる場面のチープなセット撮影も笑ってしまうくらいに印象的。この奔放さ、監督が意識したのかどうかは知らないが、鈴木清順監督作に通ずるものがあるのでは・・・とも思えてくる(的はずれな指摘ならゴメンなさい)。
主人公ダムは父親の復讐のため盗賊団の一員になり、ブラック・タイガーと異名を取る銃の名手となる。この一味が出てくる度に、映画は一転してウエスタンとなる。盗賊団のボスであるファーイの風貌はどこかチャールズ・ブロンソンを思わせるし、マカロニ・ウエスタン調の音楽が流るわ、サム・ペキンパー監督作のような血まみれスローモーションも出てくるわ・・・当てずっぽうだけどこの監督は本当に研究熱心な方とお見受けした。クライマックスの元相棒との一騎打ちにしても、目のクローズアップと、頭からしたたる雨の粒を追うカメラ・・・うーん、セルジオ・レオーネかっ!?。
二人の身分違いの恋は成就せぬまま終わるのだけれど、これがまた切ない。故に活劇だけで終わらないのね。夕陽がハイスピードで沈むのをバックにした海辺での愛の告白は本当に泣かせる。最後に繰り返される「人生は長い苦しみです。だから一瞬の幸福を求めるのです。」という台詞にまたグッとくる。また胸ポケットに入れていたハーモニカで一命をとりとめながら、ラストではフォトフレームを弾丸が貫通してしまう対比の見事さ・・・。二人の関係を最初からすべて見せずに、少年時代のエピソード、再会、告白、”乙女を待つ場所”での約束・・・と少しずつ二人の関係を明らかにしていく構成がまたこの物語をスリリングにしていく。くーっ、好きだ!これ。