■「天国にいちばん近い島」(1984年・日本)
監督=大林宣彦
主演=原田知世 高柳良一 峰岸徹 赤座美代子 高橋幸宏
80年代の角川映画の三人娘(薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子)で誰が好き?と聞かれたら、僕の答えは迷わず原田知世だ。10代の頃の写真集は持ってるし、初期のレコードもきちんと持っている。熊本市民会館のコンサートは前から2列目だった。トーレ・ヨハンソンがプロデュースした傑作アルバムもちゃんと持ってる。でもね。意外と映画はきちんと観ていないのだ。初のキスシーンがあったせいなのか(笑)「早春物語」はいまだに観ていないし、バブル期のリゾート映画よりも後の出演作は正直なところあんまり観ていない。大林宣彦監督作のこの「天国にいちばん近い島」は、「Wの悲劇」(名作)と二本立てだったにもかかわらず観ていなかった。製作から30年近く経って、やっと観る気になった。遅すぎです。言い訳はこれぐらいにして。
感想・・・(汗)。これは大林監督作の中でもかなりガッカリする映画ですな。往年のハリウッドクラシックみたいなオープニングタイトル。"天国にいちばん近い島"があると、お父さんが少女に話してきかせる場面から物語は始まる。その父親が亡くなって彼女はその島がニューカレドニアだと信じて島を訪れようと決心する。ところがツアーで案内されるのは、市街地中心のリゾートばかり。自分の天国にいちばん近い島を見つける、と言ってツアコンを困らせる彼女。峰岸徹扮するガイドや高柳良一扮する現地の日系人との出会いを通じて、成長する姿を描くお話である。
この映画を観ながら、僕は終始苦笑いしていたような気がする。おそらく公開当時に観ていたらこの気恥ずかしさは感じなかっただろう。大林監督はアイドル映画を撮りながらも、愛を探し続ける大人たちのドラマを撮ろうとしているように感じられるのだ。戦死した夫を弔いに来た乙羽信子の風格、峰岸徹と赤座美代子が寄りを戻すまでのメロドラマ、日系二世を演じた黒塗りの泉谷しげる、仕事のグチを言い続ける小林稔侍。森村桂の原作は1960年代に書かれたものでそもそも時代が違うし、角川アイドル映画に仕上げる必要性、大林映画では珍しい海外ロケと、監督の”らしさ”が封印される要素が揃っている。日本の風景がある情緒や、現実とは違う異世界めいた要素があって輝く監督なんだな、とこれを観て改めて思う。気恥ずかしさを観ていて感じるのは、はめられたアイドル映画の枠の中で自分らしさを何とか出したいともがいているからだろう。後に若手女優の脱がせ上手にもなっちゃう大林監督だけど、この映画では知世ちゃんがドラム缶風呂で泣く場面がもちろん限界。最後まで何がやりたかったのか、居心地の悪さが残る映画だった。
ところで、舞台のひとつとなったウベア島では1988年にフランスによる虐殺事件が起きており、これをフランス政府が隠蔽していたそうだ。映画で観たあの美しい風景を思うと、悲しい現実だ。
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