
■「かげろう/Strayed」(2003年・フランス)
監督=アンドレ・テシネ
主演=エマニュエル・ベアール ギャスパー・ウリエル
第二次世界大戦時のフランス。パリの戦火を逃れ南仏へ逃げようとする未亡人が謎めいた17歳の少年と出会う。誰を信用していいかわからない。そんなすさんだ心の彼女と、その彼女に次第に憧れを抱いていく少年。近づいてはまた遠のいていく二人の心。
多くを観ている訳ではないが、アンドレ・テシネ監督作を面白いと感じたことは今までなかった。「野性の葦」も「ランデブー」も、世間的には評価されているのだが、僕はどうも感情移入し難く好きになれなかった。だが本作は登場人物それぞれの心情がうまく表現されていて、物語にグイグイ引き込まれた。エマニュエル・ベアール扮する未亡人だけでなく、登場人物は葛藤と戦っている。とにかく不安で仕方ないが子供の手前強くあらねばならない。教師という職業柄理性的であらねばならないが感情的にもなってしまう。亡き夫への思いはあるのだが、唯一の頼れる男性として次第に心を許し、また時には母親であるかのようにイヴァンに接する。一方で、自分の過去をしられたくないイヴァンはその不安に怯えながらも、美しい未亡人に惹かれていく。彼もまた葛藤と戦っている。そうした感情が一気に高まる二人のラブシーンは、この心理劇一番のクライマックスだ。内なる感情の動きで、ここまでスリリングでドラマティックな映画は作れるのだ。それを改めて思った。