Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

4TEEN / 石田衣良

2013-02-16 | 読書
4人の男子中学生が、直面する生と死、性、友情。ウェルナー症候群や極端な家庭の経済状況の差など、特殊な登場人物の設定もあるけれど、それでいて共感できないことはない。それは4人の14歳少年の生々しい”今”があるから。映画や文学で描かれる中学生の世界って、ここ最近暗くて陰湿なものが目立った。多少のデフォルメがあるにせよ、確かにそれも現実だと思う。かつて岩井俊二監督の「リリィ・シュシュのすべて」を見て、”わかるけど、でもこんなことばっかりじゃないだろ?”と怒りに近い不満を抱えて映画館を出たっけ。「4TEEN」で描かれる4人の少年は、そんな僕のこれまで抱えてきたもやもやしたものを吹き飛ばしてくれた。これこそ中学生男子。アラフォーともはや呼びにくくなってきた僕でも、なんか共感できちゃうんだよね。ここまで性に執着してたっけ?とわが身を振り返りつつも(苦笑)。

文章のすき間からマウンテンバイクに乗って飛び出してきそうな4人の生き生きした様子。数日間夢中になって読んでいた。大人目線だとバカな行動と思えることも、その年頃だからこそ。8つのエピソードはどれもティーンの輝きが素敵だけど、人生について考える「大華火の夜に」、大人と子供の境界線だからこそ成立する「十四歳の情事」、拒食症と恋物語のコラボ「月の草」、最後を飾る「十五歳への旅」が特に好きだ。

そして、読み終わった後、ふと自分を顧みてしまう。
こんなに一緒に冒険ができる友達がいただろか?
こんなに腹を割って話せる程に自分は友情を深めてきただろか?

爽やかな読後感です。

4TEEN (新潮文庫)4TEEN (新潮文庫)
石田 衣良

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ステイン・アライブ - 80's Movie Hits ! -

2013-02-13 | 80's Movie Hits !

■Far From Over/Frank Stallone
from「ステイン・アライブ/Staying Alive」(1983年・米)

監督=シルベスター・スタローン
主演=ジョン・トラボルタ シンシア・ローズ

イントロのカッコよさ!やたら長い間奏のカッコよさ!キーボード弾きの僕は、当時このアレンジ(キメ+8分音符連打)に惚れました。高校2年生だったかなぁ、ちょうどオリジナル(作詞・作曲)を書いてた頃で、ある思い入れのある曲のイントロにパクらせてもらいました。その曲を知る高校時代の友人がこれを読むと、あーあーと思えること必至だな(恥)。でも Far From Over 自体はそれだけの曲でしかないんだよね(笑)。ヴォーカルのメロディーなんてほぼワンフレーズを延々繰り返しているだけ。音楽におけるアレンジの重要さを、あのとき認識した気がするなぁ。

映画「ステイン・アライブ」は、あのヒット作「サタデー・ナイト・フィーバー」の続編。セクシーなダンスで夜の街を賑わせた主人公も、ダンスフロアよりも外の世界でどう生きていくか・・・という現実に直面していた。ミュージカルで踊ること、スターになることを目指してオーディションを受け、挫折あり、恋あり、そして成功・・・というやたら観る者を奮い立たせるようなお話。何せ脚本・監督がシルベスター・スタローンというダンス映画だから、ストーリーはとことん「ロッキー」のままなんだよね(監督は一瞬出てきます)。だから振り付けよりも、トレーニングで改造されたトラボルタの肉体美が見どころだったりする。実際スタローンは、トラボルタがこの体を維持できるならロッキー・バルボアと対戦させてもいい、とコメントしたくらい。

で、音楽は「サタデー~」の続編だから、当然ビージーズは欠かせない・・・はずなんだけど、本編で目立っていたのはやはり Far From Over の方だった。この扱いにはビージーズ側も不満だったとか。新曲を提供したのだがヒットには結びつかなかった。一方で Far From Over は大ヒットとなってしまう。ブロードウェイで初日の成功を手にした主人公に、「今何を一番したい?」と周りが尋ねるラストシーン。高揚した気分の彼の答えは、前作みたいに腰を振りながら「街を歩く!」ことだった。ここで前作の Staying Alive が流れ、エンドクレジットへ。ビージーズが目立ったのは残念ながらここだけだった。

あっ、忘れるところだった。フランク・スタローン。彼はスタローン監督の弟。本編にもチョイ役で出演している(シンシア・ローズのデートの相手)。他にはあまたのB級映画(例えばクリスティ原作の超B級映画「サファリ殺人事件」とか)に出演している。TV「マイアミ・バイス」にも一度ゲスト出演してるみたい。この「ステイン・アライブ」では曲も書き、プロデュースもし、シンシア・ローズ(後のリチャード・マークス夫人)とデュエットし、「フラッシュダンス」で Lady, Lady, Lady を歌ったジョー・エスポジトに曲を提供したりと大活躍。しかしその後の活躍は日本では聞かれない。兄貴の映画では何度か歌が聴けます。

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かげろう

2013-02-12 | 映画(か行)

■「かげろう/Strayed」(2003年・フランス)

監督=アンドレ・テシネ
主演=エマニュエル・ベアール  ギャスパー・ウリエル

 第二次世界大戦時のフランス。パリの戦火を逃れ南仏へ逃げようとする未亡人が謎めいた17歳の少年と出会う。誰を信用していいかわからない。そんなすさんだ心の彼女と、その彼女に次第に憧れを抱いていく少年。近づいてはまた遠のいていく二人の心。

 多くを観ている訳ではないが、アンドレ・テシネ監督作を面白いと感じたことは今までなかった。「野性の葦」も「ランデブー」も、世間的には評価されているのだが、僕はどうも感情移入し難く好きになれなかった。だが本作は登場人物それぞれの心情がうまく表現されていて、物語にグイグイ引き込まれた。エマニュエル・ベアール扮する未亡人だけでなく、登場人物は葛藤と戦っている。とにかく不安で仕方ないが子供の手前強くあらねばならない。教師という職業柄理性的であらねばならないが感情的にもなってしまう。亡き夫への思いはあるのだが、唯一の頼れる男性として次第に心を許し、また時には母親であるかのようにイヴァンに接する。一方で、自分の過去をしられたくないイヴァンはその不安に怯えながらも、美しい未亡人に惹かれていく。彼もまた葛藤と戦っている。そうした感情が一気に高まる二人のラブシーンは、この心理劇一番のクライマックスだ。内なる感情の動きで、ここまでスリリングでドラマティックな映画は作れるのだ。それを改めて思った。



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ビジョン・クエスト 青春の賭け

2013-02-11 | 映画(は行)

■「ビジョン・クエスト青春の賭け/Vision Quest」(1985年・アメリカ)

監督=ハロルド・ベッカー
主演=マシュー・モディーン リンダ・フィオレンティーノ マイケル・シューフリング ロニー・コックス

80年代洋楽ファンには忘れられない映画「ビジョン・クエスト青春の賭け」。劇中使用されたマドンナのCrazy For Youと、主題歌であるジャーニーのOnly The Youngの2曲がヒットチャートを席巻していた。僕ら世代に洋楽の魅力を叩き込んだ小林克也センセイは、まだ邦題も決まっていない"Vison Quest"という映画サントラの曲だとテレビの向こうでおっしゃっている。当時、マドンナもジャーニーも大好きだった僕(このあたりが既に音楽的嗜好として節操がない)としては、サントラは外せない。だがその2曲こそ夢中になって聴いたけれど、サントラCDを手にするのはかなり後のこと。それは何故か・・・というと映画が実はあんまり面白くないんだ、という世間の噂があったからだ。映画はヒットチャートの騒ぎが一段落した夏にひっそりと公開された。結局僕は公開当時も観なかったし、ビデオリリースされてからも観ないまま。80年代映画主題歌の専門サイトまでやってたくせに観ていないのはちょっと・・・といい加減に思い、公開から30年近く経ってやっと観るに至った。すんません、言い訳がまた長い(汗)。

結論。こりゃ、サントラのヒットがなかったら日本未公開だったのでは?と思えた。時代はお気楽な青春映画がどうしても目立つ80年代。レスリング部に所属する18歳の主人公ラウデンは、今の体重を2段階落として、州最強と言われる無敗の選手と戦うことを決意する。彼を待っているのは過酷な過酷な減量。食事もろくにせず、失神したり、鉄分不足で鼻血出したり。親の居ぬ間にコールガールを家に呼ぶ高校生をトム・クルーズが演じてたり(「卒業白書」)、学校をズル休みして大騒ぎする高校生をマシュー・ブロドリックが演じてたり(「フェリスはある朝突然に」)する時代に、なんとストイックなこと。主人公を演ずるマシュー・モディーンもだんだん映画が進むにつれて顔もほっそり見えてくるし、顔色悪くなっていく。血色のいい男の子たちが活躍した”ブラッド・パック時代”(懐かしい響き)に、なんともかわいそうな役柄。

そして、父親が車のトラブルで困っている美しい女性カーラを家に住まわせたことから18歳のラウデン君の恋が始まる。レスリング一筋に真面目にやってきたラウデン君、3歳年上のカーラに夢中になっていく。ところが女性への興味を一気にかき立てられたことから、彼の苦悶が始まってしまう。バイト先で医学書を広げて女性の体について調べたり、それまで筋肉の不思議について学校新聞に寄稿していた彼が(この段階で既に変な人)、女性の神秘について記事を書き、それを載せた新聞部女子とゴミ拾いの罰を受けちゃったり。カーラと国語の先生との関係を疑って嫉妬に狂ったり、やっと二人きりになれても話題が性から離れない。見方によっては意中の人に対して「したいんです」と繰り返してるような行動なのね、これ。「グローイングアップ」やら「ポーキーズ」やら性春映画がやたら多かった時代に、これまたなんともストイックに耐えるばかりのかわいそうな主人公。「あーあそんなこと言っちゃって!」と観ているこっちがハラハラする。そんな彼をきゃわいいと思ったのか、根負けしたのか。ラウデンの祖父の家を訪れたとき、カーラはラウデンに口づけ。ところが大事な試合を前にカーラは彼の家から姿を消す・・・その真意は?試合の行方は?・・・後は自分の目で確かめていただこう。

マシュー・モディーンは「フルメタル・ジャケット」でもその演技のうまさが光る人だけに、他のブラッド・パック男優たちと比べると華がない。ヒロインのリンダ・フィオレンティーノ(とても21歳には見えない)はこれがデビュー作(「MIB」で名前が知られるようになるのはずっと後のことだ)。サバサバしてカッコいい女性役だが、当時のアイドル視された若手女優たちと比べるとやっぱり華やかさがない。同じように苦しい練習(修行)を経て、映画の終わりで試合に勝つ展開であれば、ラルフ・マッチオの空手映画「ベストキッド」も同じ。だけど練習も恋もほんわか成就しちゃった「ベストキッド」と違って、「ビジョンクエスト」はその道のりで起こるいろんな悩みや葛藤を生真面目に描いた映画なのかもしれない。そう思うと、なんとなく地味でやや変な印象のこの映画は、あのお気楽な青春映画の時代にものを言わんとした映画だったのかもしれない。それにしても、Only The Youngが流れる瞬間の高揚感は最高!。洋楽ファンなら、それを味わうだけでこの映画は輝いて見えることだろう。



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カンフー・マスター!

2013-02-10 | 映画(か行)

■「カンフー・マスター!/Kung-fu Master !」(1987年・フランス)

監督=アニエス・ヴァルダ
主演=ジェーン・バーキン マチュー・ドミ シャルロット・ゲンスブール

 ジェーン・バーキンのアイディアから生まれたという、不思議な雰囲気の恋愛映画。娘の友人である15才の少年とジェーンは恋におちる。彼はテレビゲーム「カンフー・マスター」に夢中な男の子。ジェーンは彼に会いたい一心で学校へ行ったり、見舞いに行ったり、お気に入りのゲーム機があるところを探したり。40代の女性がするとは思えない行動に、恋する気持ちの狂おしさが感じられる。

 ロマンティックな島の場面を経て、厳しい現実で引き裂かれる二人。この辺がドロドロせずにその後の二人に焦点を合わせているのが好感。ラストに男の子はひと夏の恋を友人に話すけれど、果たして友人は信じたのやら?。聞きようによっては、ゲームの武勇伝のように恋を語っているようにも聞こえる。この経験で彼が成長することを思ってやまない。一方でジェーンは大事なものをいろいろと失ってしまう。恋愛を通じて男も女も成長していくものでもあるけど、大人を子供に帰すものでもある。いずれにしても”恋に恋してる”すべての大人に見て欲しい。そんな映画。

 ジェーンのファンには、実の娘シャルロット・ゲンスブールとルー・ドワイヨンが出てくるだけでも、実生活の雰囲気が垣間見える気がして面白い。ちなみにマチュー・ドミはヴァルダ監督とジャック・ドミ監督の子供、ジェーンのロンドンの両親は実の両親なのだとか。この頃のシャルロット、ほんとかわいいよね。彼女がボリス・ヴィアン(セルジュ・ゲンスブールを見いだした人物のひとり)の「日々の泡」を読んだという台詞が出てくるけど、ここなんかセルジュのファンがニヤッとするところだ。

(2003年筆)




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天国にいちばん近い島

2013-02-09 | 映画(た行)

■「天国にいちばん近い島」(1984年・日本)

監督=大林宣彦
主演=原田知世 高柳良一 峰岸徹 赤座美代子 高橋幸宏

80年代の角川映画の三人娘(薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子)で誰が好き?と聞かれたら、僕の答えは迷わず原田知世だ。10代の頃の写真集は持ってるし、初期のレコードもきちんと持っている。熊本市民会館のコンサートは前から2列目だった。トーレ・ヨハンソンがプロデュースした傑作アルバムもちゃんと持ってる。でもね。意外と映画はきちんと観ていないのだ。初のキスシーンがあったせいなのか(笑)「早春物語」はいまだに観ていないし、バブル期のリゾート映画よりも後の出演作は正直なところあんまり観ていない。大林宣彦監督作のこの「天国にいちばん近い島」は、「Wの悲劇」(名作)と二本立てだったにもかかわらず観ていなかった。製作から30年近く経って、やっと観る気になった。遅すぎです。言い訳はこれぐらいにして。

感想・・・(汗)。これは大林監督作の中でもかなりガッカリする映画ですな。往年のハリウッドクラシックみたいなオープニングタイトル。"天国にいちばん近い島"があると、お父さんが少女に話してきかせる場面から物語は始まる。その父親が亡くなって彼女はその島がニューカレドニアだと信じて島を訪れようと決心する。ところがツアーで案内されるのは、市街地中心のリゾートばかり。自分の天国にいちばん近い島を見つける、と言ってツアコンを困らせる彼女。峰岸徹扮するガイドや高柳良一扮する現地の日系人との出会いを通じて、成長する姿を描くお話である。

この映画を観ながら、僕は終始苦笑いしていたような気がする。おそらく公開当時に観ていたらこの気恥ずかしさは感じなかっただろう。大林監督はアイドル映画を撮りながらも、愛を探し続ける大人たちのドラマを撮ろうとしているように感じられるのだ。戦死した夫を弔いに来た乙羽信子の風格、峰岸徹と赤座美代子が寄りを戻すまでのメロドラマ、日系二世を演じた黒塗りの泉谷しげる、仕事のグチを言い続ける小林稔侍。森村桂の原作は1960年代に書かれたものでそもそも時代が違うし、角川アイドル映画に仕上げる必要性、大林映画では珍しい海外ロケと、監督の”らしさ”が封印される要素が揃っている。日本の風景がある情緒や、現実とは違う異世界めいた要素があって輝く監督なんだな、とこれを観て改めて思う。気恥ずかしさを観ていて感じるのは、はめられたアイドル映画の枠の中で自分らしさを何とか出したいともがいているからだろう。後に若手女優の脱がせ上手にもなっちゃう大林監督だけど、この映画では知世ちゃんがドラム缶風呂で泣く場面がもちろん限界。最後まで何がやりたかったのか、居心地の悪さが残る映画だった。

ところで、舞台のひとつとなったウベア島では1988年にフランスによる虐殺事件が起きており、これをフランス政府が隠蔽していたそうだ。映画で観たあの美しい風景を思うと、悲しい現実だ。

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ル・アーブルの靴みがき

2013-02-07 | 映画(ら行)

■「ル・アーブルの靴みがき/Le Havre」(2011年・フィンランド=フランス=ドイツ)

監督=アキ・カウリスマキ
主演=アンドレ・ウィルム カティ・オウテイネン ジャン・ピエール・ダルッサン ブロンダン・ミゲル

フィンランドのアキ・カウリスマキ監督の最新作は、ヨーロッパで深刻な問題でもある不法移民をテーマにしている。フランス北部、イギリスとの海峡に面した港町ルアーブル。ある夜、港に置かれたコンテナから子供の声が。翌朝、扉を開けるとアフリカから来た人々が黙って座っていた。その場から一人逃げ出した少年。一方、街で慎ましく暮らす靴みがき主人公は、妻の急な入院と自分を遠ざける態度に戸惑っていた。港で見かけた少年と知り合った彼は、何とか少年を匿って、彼が母親の暮らすイギリスへ渡るのを手助けしようとする。追っ手が迫り、資金はなし。彼の静かなる奮闘がこの映画の軸だ。

アキ・カウリスマキ監督の映画は、陽のあたらない場所に生きる庶民を描くことに特徴がある。この映画も例外ではなく、決して裕福とは言えない主人公夫婦の暮らしが描かれる。パン屋にツケをためているような彼が、少年のために大金を集めようとしたり、危険を冒したり。登場人物がニコリともしないのも監督作品のお約束。だけどなぜだが僕らはホッとする。それは今や映画でも現実世界でも失われつつある人情劇だからだ。政府の移民政策に一言ある訳でも、途上国からくる人々を憐れんだりする訳でもない。お腹を空かせて困っている少年を助ける、ただそれを当然のこととしてやっている。実社会ならいろんな要因が決断を弱らせるはずなのに。夫に本当の病状を告げない妻も自分を曲げない強い人。この映画で憎まれ役の刑事だって、かつて逮捕した男の妻を気遣うやさしさをみせる。世の中って人の善意で救われる。ストーリーは特にひねった展開がある訳ではないし、これを予定調和と評する人もいるだろう。だけど、エンドロールが終わった後の、ほっとする気持ちは予定調和だったのか?予想していたことだったか?。それは違うはずだ。世間でエンターテイメントとさせる映画たちとは、まったく違ったものであることにきっと安心したはずだ。

カウリスマキ映画を僕は数本しか観たことがないけれど、そこで使われるロックミュージックは特徴ともいえる。「過去のない男」では、記憶喪失の主人公がジュークボックスの前でロックを語り、「レニングラード・カーボーイ・イン・アメリカ」はポールシュカポーレしかできなかったバンドがロックやカントリーを習得するのが楽しかった。「ル・アーブルの靴みがき」でもそのスピリットは同じ。資金集めの為に地元のロカビリー歌手にチャリティ公演をお願いする素敵な場面が出てくる。苦しい現実社会をニコリともせずに生きている名もなき庶民を描く監督は、そんな庶民が愛する音楽を小道具として使わない。ヴィム・ヴェンダースよりよっぽどロックがわかってる人かもしれない。ある意味では。

僕が映画館に入るとき、ちょうど映画館からでてきた老夫婦がこんな会話をしていた。
「いい話やったね。」「バカなアメリカ映画観るのとは違うな。ほんっとにいい話だった。」
見え透いた人情話をウリにする日本映画とも違う。こういう映画が本当に心を癒してくれる。

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過去のない男

2013-02-06 | 映画(か行)

■「過去のない男/Mies Vailla Menneisyytta」(2002年・フィンランド=ドイツ=フランス)

●2002年カンヌ映画祭 グランプリ・主演女優賞
●2003年全米批評家協会賞 外国語映画賞

監督=アキ・カウリスマキ
主演=マルク・ペルトラ カティ・オウティネン アンニッキ・タハティ 

 職を求めてヘルシンキに出てきた男は、暴漢に襲われて記憶を失ってしまう。普通なら、ここから先は失われた記憶を取り戻そうと必死になるのが映画の常道だろう。往年の名作「心の旅路」だってハリソン・フォードの「心の旅」だってそうだ。ところがこの映画は全く違う。名もなき男は心ある夫婦に助けられた後、自分の生活基盤を作ろうと懸命になる。でも男は決してそれで涙を流したり焦ったりすることもない。淡々とでも着実に、楽しんでいるかのようでもある。救世軍による奉仕活動に従事するようになってから、男はバンドのプロデュースをしたり意欲的なところをみせる。名前がないことで本人が苦悩している様子もない。むかーしの007映画の悪役が「名前なんか墓に刻みゃいいんだ」と言っていたが、劇中男が手なずけた”猛犬”の名は実態とかけ離れたハンニバル(人食い鬼)だもの。名前なんて呼ぶときに便利って以外に何の役に立つ?とまで言われているようだ。ところが名前を言わないことからトラブルが起こる。その結果彼の身元が判明することになるのだ。

 この映画は淡々としたムードで物語も決して盛り上がらない。でも決して飽きないからカリウスマキの映画は不思議だ。それは根底に流れている名もなき庶民の人生を賛美する気持ちがひしひしと伝わってくるからだろう。これが観ている僕らに元気をくれるのだ。結果として都合良く転がっていく話ではあるけれど、人生ってやり直せるんだな・・・これを観てそう思った方あるのでは。個性ある脇役たちも印象的だ。中でも銀行に預金を凍結されて賃金が支払えないので銃と預金通帳を持って銀行に押し入る会社社長。この場面は世間の冷たさと人間の温かみを同時に感じられる名場面で忘れがたい。色彩が豊かでひとつひとつの場面が絵になるのがいい。またジュークボックスでバンドにロックンロールを教える場面が好き。短いながらも音楽の一体感を感じられる。日本食と日本酒を口にする場面のクレイジー・ケン・バンド(♪ハワイの夜)も素敵。小津安二郎の影響?があるんだそうですが、これについては僕はうまく語ることができません。どなたか教えて。




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アメリカ物語 - 80's Movie Hits ! -

2013-02-05 | 80's Movie Hits !

■Somewhere Out There/Linda Ronstadt & James Ingram
from「アメリカ物語/An American Tail」(1986年・米)

監督=ドン・ブルース

 スピルバーグがディズニーぶりっ子して製作した初めての長編アニメーション。アメリカにはネコがいない!と信じてロシアから移民してきたネズミの家族。ところが男の子ファイベルがはぐれてしまい・・・。家族との再会を果たせるのか?冒険につぐ冒険が彼を待っていた。映画はヒットを記録し、続編「アメリカ物語2 ファイベル西へ行く」も製作された。主題歌 ♪Somewhere Out There は、劇中声優の子どもによる歌唱で流れる。そしてエンドクレジットでは、リンダ・ロンシュタットとジェームズ・イングラムという大物デュエットが流れる。静かなエレクトリック・ピアノに、美しいストリングスが重なるイントロ。サビの力強い歌声は感動をもたらしてくれる。全米2位のヒットのなったこの曲は、87年のアカデミー主題歌賞にノミネートされた。惜しくもオスカー受賞は逃したが、グラミー賞を受賞している。日本では後に小林明子が こころの炎 のタイトルでカヴァーした。デュエットのお相手は杉田二郎。

 70年代の活躍を知る人々にとっては、リンダ・ロンシュタットがウエストコーストの歌姫であることはご承知のこと。僕がリンダ・ロンシュタットを初めて聴いたのは、実はスタンダードのカヴァー What's New である。昔の楽曲をよく知らないので、どうしても僕の中では、リンダ・ロンシュタットというと、この Somewhere Out There のイメージが強い。89年のアーロン・ネヴィルとの共演も素晴らしかった。Don't Know Much は全米2位を記録している。

 デュエットのお相手ジェームズ・イングラムは、この曲を始め、数多くのアーティストとの共演で知られている。70年代には兄弟で結成したファンクグル-プで活躍。その後クインシー・ジョーンズのお気に入りとなり、アルバムにヴォーカルとして起用された。特にグラミー賞を受賞したアルバム「愛のコリーダ」ではほとんどの曲でヴォーカルを担当した。その後パティ・オースティンとのデュエット曲 Baby, Come To Me や How Do You Keep The Music Playing 、ケニー・ロジャース、キム・カーンズとの共演(渋っ!) What About Me のヒットがある。83年のアルバム「It's Your Night」からはマイケル・マクドナルドとの共演作 Ya Mo Be There がヒットしている。そして86年のこの Somewhere Out There へとつながることになるのだ。個性的なアーティストとの共演作が多いだけに、どうも目立たないイメージが強いのだが、90年には個人の名義で I Don't Have The Heart の全米No.1ヒットがある。



※Linda Ronstadt の曲が聴ける80年代の主な映画
1980年・「アーバン・カウボーイ」 = Hearts Against The Wind
1981年・「エンティティー霊体」 = Poor, Poor Pitiful Me
1986年・「アメリカ物語」 = Somewhere Out There (Linda Ronstadt & James Ingram)
1989年・「アビス」 = Willin

※James Ingram の曲が聴ける80年代の主な映画
1982年・「結婚しない族」 = How Do You Keep The Music Playing Think About Love (Patti Austin & James Ingram)
1985年・「カラー・パープル」 = Don't Make Me No Never Mind (Slow Drag) (作曲)
1986年・「アメリカ物語」 = Somewhere Out There (Linda Ronstadt & James Ingram)
1987年・「ビバリーヒルズ・コップ2」 = Better Way

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歓楽通り

2013-02-02 | 映画(か行)

■「歓楽通り/Rue Des Plaisirs」(2002年・フランス)

監督=パトリス・ルコント
主演=パトリック・ティムシット レティシア・カスタ ヴァンサン・エルバズ

 売春宿で生まれ、多くのママに囲まれ、外の世界を知らずに育った男プチ・ルイは、理想の女性を見つけて彼女に尽くすことが夢だった。彼の前に新しく店にやってきたマリオンが現れる。君の世話をしたい。そうして彼は身のまわりから理想の男性を探すことまで世話を焼く。それが彼の愛し方。愛する女性が幸せならばそれでいい。奇妙なれど一途な思い。その気持ちの純粋さで奇妙なお話は完全に昇華されちゃってるけど、とにかくこれは普通じゃない。ディミトリとマリオンが愛しあう隣室で二人を見守るなんて、絶対にできないことだ。

 ルコント作品に登場する男たちは普通じゃないヤツばかりだ。「髪結いの亭主」にしても「仕立屋の恋」にしても「タンゴ」にしても、男たちはみんな愛することに偏執的だ。それぞれが”オレの愛し方”を持っている。それらは実に奇妙だが、その一途さ故にみな憎めない存在ばかりだ。それはプチ・ルイもそう。だがプチ・ルイは他の男たちと違う。愛する女に触れても抱こうとはしない。モノにしようとは思わないのだ。さらにディミトリがマリオンにふさわしくないと思っているのに追い払わない。多くの男性鑑賞者はきっとプチ・ルイに感情移入することはできないだろう。彼の愛し方って父性なのか?途中そうも思ったがやはり違う。悲劇的なラスト、劇中のシャンソンの歌詞のように、死を迎えようとする彼女に触れ髪に触れた。プチ・ルイは微笑んでさえいるようだった。オレのところで最期を迎えた・・・それでいいじゃないか・・・オレにはそれで十分。・・・やっぱ僕には理解できんわ。「橋の上の娘」のラストみたいに彼女をきつく抱きしめたりでもすれば、納得できたかもしれないけど。でもこれもひとつの”愛し方”。エンドクレジットをボーッと眺めながらそう思った。

 そんな理解しがたい男の物語を、最後までみせてしまうルコントの語り口はさすがだ。それにパトリック・ティムシットはやっぱり上手い。モデル出身のレティシア・カスタの近寄りがたい美しさ。もっと庶民的な容姿の女優ではこの物語には不向きだろうね。

(2004年筆)

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