山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

帚木蓬生『ヒトラーの防具』を読む

2015-04-10 19:54:13 | 読書
 日本からヒトラーに贈られた剣道防具が発見されたのはベルリンの壁崩壊の時だった。
 舞台はナチスが闊歩するベルリンだ。
 日独混血の駐在武官の主人公は、大衆が熱狂していく裏のドイツの変質を体験する。
 同時にそれは軍事態勢に軌道修正できない日本そのものと丸写しだった。

            
 ユダヤ人女性を匿いながらも居合術をヒトラーの前で披露する彼は、総統から護衛を依頼される。
 防具をヒトラーに贈った彼自身がヒトラーの防具となるわけだ。
 しかしながら、歴史の矛盾は防具の矛盾として展開されていく。

                               
 実在の高官が登場しながらあたかも実際の歴史事実かのようなサスペンスにハラハラする。
 帚木蓬生(ハハキギホウセイ)らしさは、そんな時代に翻弄される人物の中に清冽な愛と民衆への共感を織り込んでいる。
 そしてまた、歴史とは過去のことではなく現在を貫く因子をつねに内包していることでもある。

     
 天皇が1万人が戦死したというペリリュー島を訪問したが、歴代政権の歴史認識には基本的に加害者責任の自覚がない。
 戦争に至る責任関与を問わぬ間に、そんなことより経済第一主義で現在を迎えてしまった。
 そのつけは、すでにあらゆる事象に殺伐とニュースとなる。
 われわれは何に向かって生きているか、が問われているのだ。

 帚木蓬生は繰り返しそのことを作中人物に託しているように思えてならない。
            (新潮文庫、1999.5.)
 
 
 
 
 
 
コメント
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