現静岡県知事・川勝平太『資本主義は海洋アジアから』(日本経済新聞出版社、2012.4)を一気に読み終える。
辺境の島国に位置する東西の日本とイギリスが世界を席巻していった過程と相違をわかりやすく解説してくれているのがいい。大英帝国イギリスの繁栄は産業革命をステップに富国強兵による世界進出だった。
それに比べ日本は、鉄炮を頂点とする世界トップクラスの軍事力を持ちながら軍縮を決断した江戸の平和路線が対照的だという。明治以降の日本はイギリスと同じ富国強兵による西洋化に邁進して多大な犠牲のうえに敗戦を迎える。
両国とも小さな島国でありながらも世界に冠たる影響力を与えるに至った。
川勝氏は古代文明の基盤は「陸」からだったが、近代文明は「海」からだと切り込む。近世の「大航海時代」を契機に、世界史はオランダ・ポルトガル・スペイン・イギリスの経済力・軍事力は世界の中軸となった。
イスラム文明に後れを取っていたヨーロッパは十字軍に象徴される「脱亜」によってイスラム支配の地中海を奪還し、ヨーロッパとしてのアイデンティティを獲得したとする。
続けて、1985年の「プラザ合意」は、日本の経済が世界を凌駕するほどの力を発揮した象徴とし、その波及はアジアの経済発展に移行していったという。
「NIEs → ASEAN → 中国 」と連鎖・発展していったように、大陸アジアから「海洋アジア」の流れがこれからの世界を牽引していくと指摘する。
そのなかで、東西文明の両者を受容し消化してきた日本の使命は、敵を作る文明ではなく和をなす文明を発信するべき立ち位置にあるのだと強調する。
日本と海洋との関係の叙述は踏み込みが不足しているが、「海洋」という視点から世界史的な文明比較をしながら展開していく川勝氏のテンポは小気味いい。つまらない些事や政界のいじめに翻弄されていて、川勝氏本来の意図が静岡県に反映されているようには見えないが、どうだろうか。