昨年秋から、虫食い状態のままに訪れていた栃木県矢板市の石碑調査を、この5月連休中に終了させようと最後まで手拓が未了だった2基を目的に行きました。予想では、矢板市内最大のヤマツツジが満開のはずだったが、今年は既にその花の盛りは過ぎていた。
さて、今回はその公園内にある石碑のうちの1基を画像紹介。これは、題額とは別に「陸軍歩兵大尉赤禰篤太郎君碑」とある、軍人さんの碑です。出自は今の山口県周防熊毛郡阿月村で、長州藩重臣浦家の家老赤禰雅平の子として生まれ、主に日露戦役に近衛師団衛生隊長として活躍した彼の顕彰碑で、晩年に当地矢板市に住まいを移した。(彼の義兄になる武人(タケト)は、安政4年に赤禰雅平の養子となり、長州藩を救おうとして策謀しながらその志を達せられぬまま誤解が解けず慶応2年に処刑されてしまう。それは、山口県で志士として顕彰碑も建立されている赤禰武人であるので、日露戦役でお世話になった矢板地方在郷軍人達の感謝の気持ちからの建立に違いはないのだが、一方では多分にその赤禰家の関係もあっての建立と思われる。
それにしても思うのは、この石碑が建立されたのは碑陰に昭和6年9月とあるように、この時代になるととにかく巨碑の石碑(私の範疇では、巨碑とは石碑本体の高さが3メートルを超える物)が多く、それに比して銘文は中身が薄い。その一つが、なぜ勤皇の志士として活躍した義兄である赤禰武人の内容が抜けているのか不思議でならない。それは、徳太郎にとって義兄の篤き志士としての思想・活躍に影響されて育ったことは間違いないことであり、その思いもあって彼は軍人としての人生を選んだからだ。
そして、その分をカバーするかのごとく刻まれた碑文文字は、一文字が高さ5センチもある大きさである。手拓する立場からすれば、既にその漢文内容はB級であり、大きさは画仙紙用紙無駄食いの何物でもない。それでも今回手拓したのは、名門赤禰家の話と共に現地で手写する努力とその後の再校正の為に再訪する手間を考えると、拓本として手元に残しておいたほうが後々に便利だからである。そしてこれを調査手拓するなら、その前に調査する石碑が他に沢山あるのではないかと自問自答してしまう。まあそれでも、手拓していた時に地元の方から「市でもやらない、このような石碑の詳細調査をしてくれる人がいるのは嬉しい」という言葉をかけてくれたことであろうか。所で、その隣りに建立されているもう一つの巨碑の方、こちらは草書体で記されているので、地元の方には内容が全くチンプンカンプンとのこと。もっとも、「ここに文字があったのですね」と地元の方が云うように、それはそれは碑面は文字の存在すら感じないような汚れようで、それを手拓するために水洗いしたからこそ文字の存在を知っての発言だが‥。「何が書いてあるの」とのことで、概略を説明してあげると、「地元の小中学生のための副読本として、ぜひ活用したい内容なのですね」と、感心しきり。そうです。その石碑こそ、かつての矢板市民は教育に飢えて積極的に教育に情熱を持っていた素晴らしい人々の住む地方だったのです、と矢板市民として誇る石碑なのを話してあげる。
いずれにせよ、まだまだ矢板市には多くの石碑がある(特に沢地区・生駒神社にある吉沢治郎平翁の碑は残念ながら再建碑となっていたので調査外とした)のだろうが、この辺で終了として次の地へと進むことにしよう。
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