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一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『15時17分、パリ行き』 ……テロリストに立ち向かった3人の当事者が主演……

2018年03月03日 | 映画


クリント・イーストウッド監督作品である。
2015年8月に高速鉄道で実際に起きた無差別テロ事件を映画化したもので、
列車に乗り合わせていた3人のアメリカ人青年が、
テロリストに立ち向かう姿を描いたものである。
この映画の驚くべき点は、
列車に乗り合わせていた3人のアメリカ人青年、
アンソニー・サドラー、
レク・スカラトス、
スペンサー・ストーンの役を、
事件の当事者が演じていることにある。


しかも、
当時、列車に居合わせた乗客も出演させ、
撮影も実際に事件が起きた場所で行われたという。


そんな映画にはあまり出会ったことがないので、
単純に、
〈見たい!〉
と思った。
『15時17分、パリ行き』
というタイトルにも、興味をそそられた。
で、公開初日に、会社の帰りに、映画館へ駆けつけたのだった。



2015年8月21日、
オランダのアムステルダムからフランスのパリへ向かう高速列車タリスの中で、
銃で武装したイスラム過激派の男が無差別殺傷を試みる。




しかし、その列車にたまたま乗り合わせていた、
米空軍兵のスペンサー・ストーンと、
オレゴン州兵のアレク・スカラトス、
そして2人の友人である青年アンソニー・サドラーが、


男を取り押さえ、
未曾有の惨事を防ぐことに成功する。




あらすじを、こう紹介すると、
緊迫感溢れるテロ事件を、最初から最後まで活写したような、
単なるヒーロー譚のように思われるかもしれないが、
実際は、ちょっと違う。
上映時間は1時間34分と短いのだが、
このうちの大半(1時間以上)は、
スペンサー、アレク、アンソニーの3人が出会った少年時代や、






事件に遭遇することになるヨーロッパ旅行の過程を描いているのだ。


彼らが遭遇したテロ事件のシーンは、ほんの僅かしかなく、
その後、
フランス政府から彼らに勲章が贈られるシーンや、
郷里での祝賀パレードのシーンが続き、終わる。


さすがにこれでは観客が退屈するだろう……と思ったのか、
フラッシュバックのような感じで、テロ事件の模様を所々に挟んではいるが、
大半は青春ロードムービーのような感じで、
人によっては、
「期待したものと全然違う!」
と不満をぶちまけるかもしれない。
私はというと……
私もやや退屈であった。(笑)
イタリアで女の子と出逢って、
一緒に食事したり、名所巡りをしたり、




夜はクラブに行って踊り狂ったり、
あげくに二日酔いでへたり込んだり。(笑)


この映画はごく普通の人々に捧げた物語である。

と、イーストウッドは語っているが、

ごく普通の若者たちが、いかにしてテロリストに立ち向かうことができたのか……

を明らかにすることが、この作品のテーマなのだと思う。

『15時17分、パリ行き』というノンフィクションが出版されたとき、
クリスチャン・サイエンス・モニター紙が、

本書の著者たちがあまりに普通なので、読者は驚くだろう……
だが、古い格言によれば、
英雄とは、大きな困難に並外れた反応を示す普通の人々なのだ。


と評していたが、

英雄とは、大きな困難に並外れた反応を示す普通の人々なのだ。

という格言こそが、
『15時17分、パリ行き』の本質を言い当てており、
イーストウッドがこの映画に込めた想いであったと思われる。

では、そもそも、イーストウッドは、
なぜこの『15時17分、パリ行き』を映画化しようと思ったのか?
それは、2016年に、
米スパイクTV主催のイベントで、
自身が3人に“英雄賞”を贈るプレゼンターを務めたことに由る。


その後、スペンサーから送ってもらった本(この事件のノンフィクション)を読み、


映画化を決意したそうだ。

スペンサー・ストーンに送ってもらった本を読んだ時、この物語語は興味深いことだと思った。彼らの物語は。僕がかなり前からやっていること(実話の映画化)で、とても興味深く思えたんだ。それから、映画にすることに取りかかった。
3人にはテクニカル・アドバイザーを依頼した。彼らはサクラメントから何度かスタジオにやってきた。同時にこのプロジェクトを進めていて、オーディションで俳優が演じ、事件を演じることが出来た何人かとても良い役者たちを見ていた。でもある時、テクニカルな面の話し合いの中で、僕は彼ら3人に「自分たち自身を演じることについて、あなたたちはどう思う?」と言った。僕は何かを見逃していた。その可能性をね。僕はもっと小さい状況で、役者じゃない人を使ったことはある。多分、見た目がとてもよかったんだ。今回の場合、僕は彼らの顔を見た。彼らの顔はみんなとてもユニークで、とても好感がもてるから、この挑戦はとても面白いものになると思った。もし自分たちがこれをうまくやり遂げられたらね。そしてまた、もし僕らがそれを正しくやらなかったら、ひどいものにもなりえると感じた(笑)。そこから僕らはスタートした。僕はそれについて少しの間考え、そしてやっと「僕らはそれをやる」と決め、トライし、今ここにいるんだ。


当事者である3人が自分自身を演ずることになったいきさつをこう語っているが、
イーストウッドが企てたこの試みは、概ね成功している。
3人の演技はお世辞にも上手いとは言えないが、
本人たちが演じているというリアリティーには比類がなく、
これほど贅沢な再現VTRもないであろう。


正直に告白すると、
私は、あまり、クリント・イーストウッド監督作品は好きではない。(コラコラ)
相性が良くないと言うべきか。
このブログでもイーストウッド監督作品のレビューはほとんど書いていない。
彼が映画にする題材の「あざとさ」や、
作品全体に漂う「大味さ」についていけないからだ。
早撮りのイーストウッド監督作品には「細部」へのこだわりがない。
私はどちらかというと、
「神は細部に宿る」と思っており、
細部を大事にして丁寧に撮った作品を好む。
だから、
イーストウッド監督作品が優れていることは認めながらも、
レビューを書かずにいた。

では、なぜ、今回書いているかというと、
87歳を迎えても尚、
新たな挑戦を続けるイーストウッド監督に敬意を表してのことである。


「好き」「嫌い」は別にして、
高齢になっても、
テロリストに立ち向かった3人の当事者を主演に抜擢するという、
(究極のリアリティーの追求ともいうべき)前代未聞のトライアルに挑んだその姿勢は、
称賛に値するものである。




皆さんも、映画館で、ぜひぜひ。

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