一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『リバーズ・エッジ』 ……二階堂ふみを丸裸にした行定勲監督の傑作……

2018年02月28日 | 映画


1993年に雑誌「CUTiE」で連載されていた岡崎京子の同名漫画を、
行定勲監督が実写映画化したものである。
岡崎京子と言えば、
沢尻エリカ主演の傑作映画『ヘルタースケルター』(2012年)の原作者でもある。
蜷川実花が監督したこの『ヘルタースケルター』を、私は、
……沢尻エリカと寺島しのぶの覚悟が傑作を生んだ……
とのタイトルでレビューを書いた。(レビューはコチラから)
岡崎京子の世界観が好きで、
彼女の漫画を原作にした映画を見たいと、かねてより思っていた。
そこに、岡崎京子の最高傑作の呼び声も高い『リバーズ・エッジ』である。
主演は、二階堂ふみ、吉沢亮。
共演に、上杉柊平、SUMIRE、土居志央梨、森川葵。
見たいと思った。
で、福岡へ行ったときに、
福岡の映画館で鑑賞したのだった。
(佐賀のシアター・シエマでも上映中・3月9日迄)


女子高生の若草ハルナ(二階堂ふみ)は、


彼氏の観音崎(上杉柊平)が苛める同級生の山田(吉沢亮)を助けたことをきっかけに、
夜の河原へ誘われ、放置された“死体”を目にする。


「これを見ると勇気が出るんだ」
と言う山田に絶句するハルナ。
さらに、
宝物として死体の存在を共有しているという後輩でモデルのこずえ(SUMIRE)が現れ、


3人は決して恋愛には発展しない特異な友情で結ばれていく。


ゲイであることを隠し、街では売春をする山田(吉沢亮)。


そんな山田に過激な愛情を募らせるカンナ(森川葵)。


暴力の衝動を押さえられない観音崎(上杉柊平)。


大量の食糧を口にしては吐くこずえ(SUMIRE)。


観音崎と体の関係を重ねるハルナの友人ルミ(土居志央梨)。


閉ざされた学校の淀んだ日常の中で、
それぞれが爆発寸前の何かを膨らませていた。
そうした彼らの愛憎や孤独に巻き込まれ、
強くあろうとするハルナもまた、
何物にも執着が持てない空虚さを抱えていた。
そんなある日、ハルナは新しい死体を見つけたという報せを、山田から受ける……




行定勲は、よく分らない監督である。

『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年5月8日公開)
『北の零年』(2005年1月15日公開)
『春の雪』(2005年10月29日公開)
『クローズド・ノート』(2007年9月29日公開)
『今度は愛妻家』(2010年1月16日公開)
『パレード』(2010年2月20日公開)
『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』(2013年1月26日公開)
『真夜中の五分前』(2014年12月27日公開)
『ピンクとグレー』(2016年1月9日公開)
『ナラタージュ』(2017年10月7日公開)


など、これまでの監督作をこうして眺めても、そこに一貫したものがない。
だからといって、特色がないかといえば、
行定勲らしさに溢れているのだから、ますます分らなくなる。
『世界の中心で、愛をさけぶ』のようなヒット作もあるし、
『今度は愛妻家』のような感動作もある。(この作品は本当に泣けた)
『春の雪』のような文芸作品をものしたかと思えば、
熊本を舞台にした中編『うつくしいひと』(2016年3月4日公開)では、
2016年4月14日に発生した平成28年熊本地震を受け、
各地でチャリティー上映会を催したりもする。
素晴らしい監督である。
だが、監督としての評価となると、
(極私的には)それほど高いものではなかった。
そこへ、本作『リバーズ・エッジ』である。
行定勲監督と岡崎京子のミスマッチ的な組み合わせがうまくハマると、
意外な化学反応が起きるのではないかと期待していた。
そして、それは、予想を大きく上回るものであった。
原作の力もあろうが、
登場人物の一人ひとりのキャラが立っており、
面白く、興味深く鑑賞することができた。
「傑作」と言ってイイでしょう。



若草ハルナを演じた二階堂ふみ。


本作がベルリン国際映画祭でパノラマ部門のオープニング作品としてお披露目された際、
行定監督が、

僕らの青春時代に本当に神格化されるくらい影響を与えた漫画なので、映画化することには非常に勇気が要りました。しかし、隣にいる二階堂ふみから、その漫画を今の時代にあえて映画化しないか、今、日本ではどちらかというとわかりやすい映画がたくさんの若い人たちに観られることが多いのですが、もっとショックを与えるような映画になるのではないかという話があって、背中を押される形で映画化することにしました。

と語っていたが、
二階堂ふみが切望した本作の映画化であり、
彼女が切望したハルナの役であったらしい。
さらに、

二階堂ふみと出会って、彼女の「自分がハルナを演じるにはもう時間がない」という思いに僕らが火をつけられて、挑戦状を突きつけられたような気持ちになった。

とコメントしていたが、
1994年9月21日生まれの23歳(2018年2月現在)の二階堂ふみが、
女子高生のハルナを不自然なく演じるにはギリギリの年齢であると感じていたのであろう、
彼女が行定監督をせかす形で急ピッチで映像化されたことが窺える。
それだけに、二階堂ふみの想いが詰まった作品に仕上がっている。
私は、このレビューのタイトルを、
……二階堂ふみを丸裸にした行定勲監督の傑作……
としたが、
行定監督が二階堂ふみのすべてを本作で表現しているという意味もあるが、
二階堂ふみが、その言葉通り、全裸を晒しているという意味もある。
その(見事な)裸体は、
行定監督が望んだというよりも、
二階堂ふみの覚悟と見るべきなのかもしれない。
これほどの作品に出逢い、
それほどの覚悟で挑んだ作品だったのである。
今となっては、
TVの『ぐるぐるナインティナイン』の「ゴチになります」を卒業したのは、
当然のなりゆきだったと思わされる。
美味いものを喰って、笑っている場合ではなかったのである。



ハルナの同級生の山田一郎を演じた吉沢亮。


本作が傑作に成り得ているのは、吉沢亮がいたからこそである。
もっとも重要な役なので、彼以外では成功しなかったのではないか……
そう思わせるほどの演技をしていた。
時々、高良健吾ではないか……と思わせるほど似ているシーンがあり、
高良健吾のような素晴らしい男優に成長していくのではないかと期待を抱かせる。
これまでは仮面ライダーや学園ものに出演しているイメージであったが、
これからは、『リバーズ・エッジ』の吉沢亮と記憶されるだろう。



その他、
山田に過激な愛情を募らせるカンナを演じた森川葵、


大量の食糧を口にしては吐くこずえを演じたSUMIRE。


観音崎と体の関係を重ねるハルナの友人ルミを演じた土居志央梨の演技が素晴らしいし、
鮮烈な印象を残す。




まだいろいろ書きたいことはあるが、
出勤前なので、この辺で終えよう。

昨年(2017年)は、前半は不作であったが、
今年(2018年)は、のっけから傑作が続出している。
見たい映画が目白押し状態。
皆さんも映画館で、ぜひぜひ。


この記事についてブログを書く
« 舞台『アンチゴーヌ』(北九... | トップ | 映画『15時17分、パリ行き』... »