一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

海抜0メートルから登る北アルプス「剱岳」 ①滑川~蓑輪~伊折~馬場島

2014年08月04日 | 海抜0mから登る北アルプス「剱岳」単独行
「佐賀県で一番好きな山は?」
とか、
「九州で一番好きな山は?」
とか訊かれたら、大いに迷うところだけど、
「日本で一番好きな山は?」
と訊かれたら、
たぶん迷わず即答するだろう。
「剱岳」と。

剱岳に登ったのは、もう4年前のことになる。
会社から4日間の連休をもらい、
初日は、佐賀から室堂まで。
2日目は、立山三山を縦走し、剣山荘まで。
3日目は、剱岳登頂後、大日三山を経て、大日小屋まで。
4日目は、大日小屋から大日平、称名滝を経て、佐賀まで。
佐賀からの往復の時間を含めた4日間で、
立山三山、剱岳、大日三山を楽しめた思い出は、
今も私の胸の奥に宝物としてある。
この4年前の縦走時、
いろんな角度から剱岳を眺めたが、
その存在感に圧倒された。
ことに、別山から剱岳を見たときは、感動で躰が震えた。
その瞬間、剱岳が私の中で「一番」の山になった。


剱岳に登頂時は、
その喜びに有頂天になっていたが、
冷静になって考えてみると、
小屋から剱岳山頂までのピストンで、
歩行時間は休憩時間を除くと4時間ほどしか要していない。
剱澤小屋の標高が2400mで、
剣山荘の標高が2470mだから、
剱岳山頂までの標高差は僅かしかなく、
難所が多いとはいえ、たかだか500m~600mを登るだけなのだ。
これで、はたして、剱岳へ登ったと言えるのか?

いつしか、剱岳へも、
「海抜0メートルから登れないだろうか……」
と考えるようになっていた。
ネットで検索してみると、
海抜0メートルから剱岳へ登った人は、それほど多くなく、
しかも、ほとんどが、海抜0メートルから馬場島へは自転車を使っていた。
普通の登山者が、
普通に歩いて、
海抜0メートルから剱岳山頂まで登った例はほとんどなかった。
「これはやってみる価値があるのではないか……」
と思った。
いや、価値があるとかないとかより、
私自身が、海抜0メートルから剱岳に登ることを熱望するようになっていた。

そして、今夏、ついに実行に移すことにした。
どこを出発点にするか大いに悩んだが、
地図などで検討した結果、
滑川市にある「道の駅ウェーブパークなめりかわ」近くの海岸に決めた。
第1日目は、ここから馬場島までの約30kmを歩く。
第2日目は、馬場島から一気に剱岳山頂を目指す。
普通は、早月小屋に泊まって、
その翌日に山頂までのピストンというのが一般的だが、
馬場島から早月小屋までのコースタイムが、
『山と高原地図』によると、5時間40分と中途半端。
それよりも、馬場島から一気に剱岳山頂まで登って、
別山尾根ルートを下って剱澤小屋まで行こうと思った。


ただ、馬場島から剱岳山頂までのコースタイムが9時間10分かかる上に、
疲れのピークのときに、
別山尾根の「カニのよこばい」などの難所をさらに2時間25分も歩かなければならない。
それに、早月小屋や、剱澤小屋・剣山荘などからピストンする場合は、
ザックを小屋にデポして、サブザックなど空身に近いかたちで登れるが、
早月尾根から別山尾根へ越えるとなると、
全装備を背負って難所を歩かなければならない。
重いザックを背負って、計11時間35分の歩行はけっこう大変だ。
そこで、ザックは、いつものカカポくんではなく、
25リットルの軽量ザックにすることにした。
用意したのは、モンベルの「フラットアイアンパック 25」。
このザック、重量は560gしかない。
このザックに入るだけのものを持って行こうと決めた。


ザックと共に、登山靴も軽いものにした。
初日に舗装道路を約30km歩くので、
重い登山靴では足がツライ。
馬場島から先は険しい山歩きになるので、
あまり軟弱な靴では駄目だが、
ある程度の条件を満たしていれば、
ハイキング用の靴でもイイのではないかと考えた。
そこで用意したのが、
メレルの「モアブミッド ゴアテックス」。
27cmで重さ490g(片方)しかない。
いつも履いている登山靴より300gほども軽い。


8月4日(月)
富山県滑川市。
夜明け前の海岸に佇む、
老いさらばえ、足腰の弱りつつある男ひとり。(笑)


登山靴を海水に浸ける。


4:41
出発。


町はまだ眠っている。
車も通らない。


滑川駅前を通過。
駅横にある地下道を通って、駅の反対側へ出た。


空が明るくなってきた。


5:05
コンビニで、エネルギージェルとパンを購入。
結局、この店が、最初で最後のコンビニであった。(笑)


5:15
太陽が見えた。


国道8号線と、


北陸自動車道の下を抜ける。




段々、人家が少なくなってきた。


軽快に歩いて行く。




6:35
入会橋を渡る。




橋の上から見た風景。


早月川沿いにある養豚場を抜けて行く。


7:03
対岸に蓑輪温泉が見えた。


7:08
ほうりゅう橋を渡る。




この辺りの早月川の水が美しい。




「歩き人」だけが見ることのできる風景。


人家がまったくなくなった。


こういうあまり人が通らない道を歩いていて、
恐いのは熊。


看板もいくつか見かけた。




私の熊対策グッズといえば、
ヤスさんからもらった「くまモンの熊鈴」と、


100円ショップで買ったホイッスル。(笑)
カーブの向う側に熊がいるかもしれないので、
カーブの手前などで、よくホイッスルを吹いた。


舗装されていない道もあったが、


そんな場所は工事現場が多く、
人がいるだけでホッとした。


この辺りからは、虫たちがまとわりつき始めた。


さっそく悟空さんから戴いた虫除けバンダナを首に巻く。


8:16
「馬場島まで12km」の道標を通過。
あと3時間ほどか?


白萩東部公民館前を通過。
内山康弘「剱」写真展が開催中であったが、
開館時刻前だったので、鑑賞は叶わなかった。
※内山康弘氏のネットのギャラリーはコチラから。


8:30
自動販売機を発見。
人家がなくなってまったく自動販売機がなかったが、
剱橋の手前でやっと発見。
嬉しくて、オレンジジュースを購入。
パンを食べながら飲む。


8:33
剱橋を渡る。


橋の上からの風景。


剱橋を渡り終えて歩いていると、
キツリフネを見つけた。
嬉しい。


8:57
伊折橋を通過。




この橋から見える風景が素晴らしかった。


遠くは雲がかかって見えないが、
晴れていれば剱岳が見えるビューポイント。


橋を歩いている間にも風景が変化していく。


9:01
「馬場島まで8km」の道標を通過。


9:06
赤谷橋を通過。


次第に道の傾斜がきつくなってくるが、


道の両側にタマアジサイが咲いていて、
疲れを癒してくれる。


9:41
「馬場島まで6km」の道標を通過。


9:46
冬期には閉鎖となるゲートを通過。
冬山のときは、ここから歩くのだそうだ。




このゲートを過ぎた辺りから、
風景が山岳美の様相を呈してくる。


雲で剱岳山頂は見えないが、
三ノ窓、小窓など、北にのびる急峻な岩稜が見える。


道沿いの花も美しい。


いよいよ剱岳の懐に入っていく感じがしてきた。


足取りも軽くなってきた。


「馬場島まで3km」の道標を通過。


10:34
白萩発電所前を通過。
写真は、通過後に振り返って撮ったもの。




馬場島が近くなってきた。


ワクワクするような風景だ。


歩いた者だけが得られる満足感。


ついに最後まで剱岳は私に心を許してくれず、
今日は姿を見せてくれなかったが、
馬場島まで歩けたことで、
そして、より剱岳に近づけたことで、
私は歓びに浸っていた。


岩に生える「座禅桜」を右手に見ながら、最後の坂を登る。


11:05
馬場島荘に到着。
滑川から6時間24分で馬場島まで歩くことができた。




早く着いたので、
周辺を散策。
明日は、午前3時出発を予定しているので、
登山口周辺を確認しておきたいと思った。

「劔岳の諭」。


そして、「試練と憧れ」。
「憧れ」だけでやってきた私は、
明日、「試練」を与えられるとも知らず、
呑気に記念写真。


馬場島荘に戻り、
風呂に入り、
昼食にカレーライスを食べ、昼寝をした。
そして、夜には品数の多い美味しい夕食を頂いた。


明日は、早月尾根を剱岳山頂まで一気に登り、
別山尾根を下って、剱澤小屋まで行く予定。
コースタイムで11時間35分の長丁場。
出発は午前3時。
早めに寝て、明日に備えることにした。

明日はどんな一日が待っているのか……

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