一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ソロモンの偽証』(「前篇・事件」&「後篇・裁判」) ……秀作なのだが……

2015年04月18日 | 映画
映画『ソロモンの偽証 前篇・事件』(3月7日公開)と、
映画『ソロモンの偽証 後篇・裁判』(4月11日公開)を、
やっと見終えた。(笑)
「前篇・事件」を鑑賞した時点で、
一度レビューを書いておこうかなと思ったが、
2部作と銘打っているものの、前篇と後篇を合わせてひとつの作品なので、
半分を見て感想を書くのもどうかと思った。
で、すべてを見終えてから、レビューを書き始めることにしたのだった。


ここ数年、『ソロモンの偽証』と同様に、
ひとつの作品を2部作として公開する映画が多くなったような気がする。
『デスノート』(前篇2006年6月17日、後編2006年11月3日公開)
『のだめカンタービレ 最終楽章』(前篇2009年12月19日、後篇2010年4月17日公開)
『SP』(野望篇2010年10月30日、革命篇2011年3月12日公開)
『僕等がいた』(前篇2012年3月17日、後篇4月21日公開)
『劇場版 SPEC〜結〜』(前篇『漸ノ篇』2013年11月1日、後篇『爻ノ篇』11月29日公開)
などがそうであったし、
昨年(2014年)公開された『るろうに剣心』も、
前篇『京都大火編』、後篇『伝説の最期編』と2部作だったし、
昨年(2014年11月29日公開)と今年(2015年4月25日)公開予定の『寄生獣』もそうであった。
今年(2015年8月と9月)公開予定の『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』も2部作になる予定とか。

このように、2部作にするのは、製作側の商業的な都合による部分が大きい。
「一粒で二度美味しい」的うま味を享受したいと考える業界人が多いからであろう。
内容の薄いものを無理矢理長く引っ張ったものもあるが、
中には、やはり二つに分けなければならないほど、内容の濃いものもある。
さて、映画『ソロモンの偽証』は、どちらだったのか?

原作は、
構想15年、執筆に9年を費やした、
現代ミステリーの最高傑作と謳われている宮部みゆきの小説で、
2012年に刊行された単行本は、
『ソロモンの偽証 第I部 事件』741頁
『ソロモンの偽証 第Ⅱ部 決意』715頁
『ソロモンの偽証 第Ⅲ部 法廷』722頁
の三冊で、総頁数は、2178頁にもなる。
三冊を重ねると、スマホの高さほどにもなる。(笑)


私は、宮部みゆきの良い読者とは言えず、
本作も読んでいなかった。
映画の公開前に図書館に予約していたら、
(田舎の図書館なので予約者が少ないということもあって)
あっさり三冊とも借りることができた。
で、
『ソロモンの偽証 第I部 事件』741頁
『ソロモンの偽証 第Ⅱ部 決意』715頁
『ソロモンの偽証 第Ⅲ部 法廷』722頁
の三冊(総頁数2178頁)を一気に読んだ。
「第I部 事件」を読んでいるときは、
正直、読み続けるのが辛かった。
一場面、一場面の描写が細かいのだ。
ミステリー色は薄く、
物語はそれほど進展しないし、
こんな感じで2000頁以上も読まされるのかと思ったら、
少々憂鬱になった。
だが、「第Ⅱ部 決意」になると、物語が動き出し、
俄然面白くなった。
そして、「第Ⅲ部 法廷」に移ると、
それこそ頁をめくるのももどかしく感じるほど熱中し、
興奮状態のまま読了した。
物語は、12月25日のクリスマスの朝に始まるが、
校内裁判は翌年の夏休みに行われる。
「第Ⅱ部 決意」と「第Ⅲ部 法廷」は、
ほとんどが夏休み期間の物語なので、
読み終えた頃には、物語の登場人物たちと、
中学三年生の夏休みを一緒に過ごしたような気分になった。
ミステリー小説ではあったが、
ヒューマン・青春ミステリーといった類の作品なので、
読後はとても爽やかであった。


【前篇】
バブル経済が終焉を迎えつつあった1990年12月25日のクリスマスの朝、
城東第三中学校の校庭で、
2年A組の男子生徒・柏木卓也(望月歩)が屋上から転落死した遺体となって発見される。


警察は自殺と断定するが、
さまざまな疑惑や推測が飛び交い、
やがて、札付きの不良生徒として知られる大出俊次(清水尋也)を名指しした殺人の告発状が届いたことによって、
マスコミ報道はヒートアップし、事態は混沌としていく。


遺体の第一発見者で2年A組のクラス委員を務めていた藤野涼子(藤野涼子)は、
生徒たちを守ろうとはせずに自分の保身ばかりを考えている教師たちを見限り、
柏木の小学校時代の友人という他校生・神原和彦(板垣瑞生)らの協力を得て、
自分たちの手で真実をつかもうと学校内裁判の開廷を決意する。


【後篇】
被告人大出俊次(清水尋也)の出廷拒否により校内裁判の開廷が危ぶまれる中、
神原和彦(板垣瑞生)は大出の出廷に全力を尽くす。


同様に藤野涼子(藤野涼子)も、
浅井松子(富田望生)の死後、沈黙を続ける三宅樹理(石井杏奈)に、
証人として校内裁判に出廷するよう呼び掛ける。


やがて涼子は、柏木卓也(望月歩)が亡くなった晩、
卓也の自宅に公衆電話から4回の電話があったと知る。
人間の底知れぬエゴや欲望、悪意が渦巻く中、
学校内裁判が開廷される……



原作本を読んでいたので、
それがマイナスに働くかも……と思っていたが、
杞憂であった。
やはり2178頁もある原作を、
忠実に映画化するには無理があり、
原作との相違点が多々あった。
それによって、原作本と比べて、映画の方が良くなかったかというと、
そうでもなくて、
特に前篇の方は秀逸な出来であった。
前篇のエンドロールのときに流れるアルビノーニのアダージョを聴きながら、
「早く後篇を見たい!」
と思ったものだった。




で、1ヶ月後に後篇の上映が始まり、さっそく見に行った。
後篇はほとんどが校内での法廷劇で、
こちらも素晴らしい出来なのだが、
やはり前篇から間が空いていたので、
前篇を鑑賞したときの昂揚感を思い出すのに時間がかかった。
やはり、前篇と後篇は続けて見たいと思った。
先程、

このように、2部作にするのは、製作側の商業的な都合による部分が大きい。
「一粒で二度美味しい」的うま味を享受したいと考える業界人が多いからであろう。
内容の薄いものを無理矢理長く引っ張ったものもあるが、
中には、やはり二つに分けなければならないほど、内容の濃いものもある。
さて、映画『ソロモンの偽証』は、どちらだったのか?


と書いたが、
映画『ソロモンの偽証』に関する限り、
やはり、二つに分けずに、一本の映画として上映すべきだったと思う。
私の場合、原作を読んでいたので、
後篇を鑑賞した際、かなりスムーズに作品に中に入っていけたが、
原作を読んでおらず、前篇を見てから間が空きすぎている人々にとっては、
違和感を感じるほどに作品に入り込めなかったのではないだろうか?
それが、「Yahoo!映画」のユーザーレビューにも表れていて、
前篇の評価が高く、
後篇の評価が低くなっているのは、
その所為と思われる。
映画の上映時間は、
前篇121分、後篇146分で、計267分(4時間27分)、
それぞれ、長くは感じなかったが、
やや増長な部分もあったので、
上映時間3時間くらいの一本の作品にまとめることも可能であったのではないかと、
その点だけが惜しまれることであった。

そのことを除けば、
本作は秀作と言っていいほどに優れた作品で、
私は映画を存分に楽しむことができた。

物語の中心となる12人をはじめとした中学生キャストは、
約1万人の応募があったオーディションで選出されているが、
まずは、主人公・藤野涼子を演じた藤野涼子。
本作での役名をそのまま芸名に女優デビューを飾った新人女優で、
2000年2月2日生まれの15歳(2015年4月18日現在)。
撮影時は14歳だったと思われ、
ほぼ等身大の主人公を見事に演じて秀逸であった。
演技経験もほとんど無かったそうだが、
その初々しい演技が新鮮で、好感が持てた。
まだスタートを切ったばかりの女優だが、
これからが本当に楽しみだ。


大出俊次の弁護人・板垣瑞生を演じた神原和彦。
2000年10月25日生まれの14歳。(2015年4月18日現在)
芸能事務所のスターダストプロモーションに所属し、
同事務所の「EBiDAN(恵比寿学園男子部)」というグループの一員であり、
さらにEBiDANの中から生まれた5人組アイドルユニット「M!LK」のメンバーでもある。
演技経験はあるものの、それまでのチョイ役とは違い、
本作では、前・後篇を通して出演シーンもセリフも多く、
クールな弁護人を見事に演じていた。
スクリーンで見ていたら、高良健吾を思い出したが、
彼を若くした感じで、目力(めぢから)があり、
藤野涼子と同様、将来性を強く感じた。


この他、
柏木卓也を演じた望月歩、


三宅樹理を演じた石井杏奈、


大出俊次を演じた清水尋也、


浅井松子を演じた富田望生、


井上康夫を演じた西村成忠、


倉田まり子を演じた西畑澪花、


向坂行夫を演じた若林時英、


野田健一を演じた前田航基、


橋田祐太郎を演じた加藤幹夫、


井口充を演じた石川新太など、
オーディションで選ばれた新鋭たちも素晴らしい演技をしていた。


中学生たちを脇で支える共演陣も豪華だ。
藤野涼子の父親・藤野剛役の佐々木蔵之介、


藤野涼子の母親・藤野邦子役の夏川結衣、


大人になった藤野涼子(中原涼子)役の尾野真千子、


三宅樹理の母親・三宅未来役の永作博美、


校長・津崎正男役の小日向文世、


新米教諭・森内恵美子役の黒木華、


北尾教諭役の松重豊、


現在の校長役の余貴美子など、
私の好きな俳優が勢揃い。


監督は、『八日目の蟬』の成島出。
日本アカデミー賞ほか主要映画賞を30冠受賞した『八日目の蟬』チームが再結集し、
永作博美、余貴美子、森口瑤子、市川実和子、安藤玉恵など、
『八日目の蟬』に出演していた女優たちも数多く集結している。


中学生を演じた若き新鋭たちの初々しい演技と、


ベテラン俳優たちのさすがの演技と、


成島出監督の素晴らしい演出で、


秀作と呼んでいいレベルの作品になっていることは間違いない。
惜しむらくは、繰り返すようだが、2部作になっていることだ。
原作も読んでおらず、前篇も見ていない人は、
前篇・後篇を通して見ることをオススメする。
後篇が公開されているが、
前篇の方もまだ上映されているようなので、(後篇が2週目に入り、前篇の上映は終了した模様。残念)
前篇を見た後に、すぐ後篇を見ると、
映画『ソロモンの偽証』の素晴らしさをより体感できると思う。
そして、できうることならば、原作本もぜひぜひ。
原作本を読めば、映画の方もより深く楽しめますよ。


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