一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『四月の雪』

2005年09月18日 | 映画
封切初日の第1回目の上映を見た。
結論から先に言うと、「私の好きな作品がまたひとつ増えた」ということだ。

日本のご婦人方に大人気のペ・ヨンジュン。
「韓国映画界の宝石」と呼ばれる女優ソン・イェジン。
『八月のクリスマス』『春の日は過ぎゆく』と、地味な作風ながら心に響くラブストーリーの傑作を撮り続ける名匠ホ・ジノ監督。
この三者によって、新たな大人のための大人のラブストーリーが誕生した。

極端にセリフの少ない映画である。
だが、深く、静かに、こらえきれな男女の心の揺れを描き出してゆく。

配偶者が交通事故で重傷を負い、救急病院に駆けつけたインス(ペ・ヨンジュン)とソヨン(ソン・イェジン)。
だが、さらなる驚きと苦悩が二人を待ち受けていた。
互いの配偶者同士が不倫関係にあったのだ。
見知らぬ町。
永遠のような長い時間。
そして、悲しい嘘。
絶望の淵に立たされたふたりはやがて、互いの傷を癒すかのように惹かれ合っていく。
配偶者を許せないと思っていた二人が、皮肉なことに自分たちも同じような関係に陥っていくのだ。

この映画には、「人生がそうであるように、人もまた美しい部分と醜い部分をもちあわせている」というメッセージが込められている。
記者会見で、ホ・ジノ監督は次のように語っている。
「愛というものに傷ついた人へのなぐさめとなればうれしい」

印象に残るシーンが多い。
私がいまでもすぐに思い浮かべるのは、ソヨン(ソン・イェジン)が道端で泣く場面だ。
ソヨンは、インスと一緒に、事故に巻き込まれて死んだ男性の葬式に行って、その家族に激しく責め立てられる。
その帰り、ソヨンは車から降りて、道路の脇で号泣するのだ。
荒涼とした寂寥感のある風景。
カーブしながら続く道路。
うずくまる女。
立ち尽くす男。
この映画の名場面のひとつだ。




この映画には、絵はがきのような美しい風景は登場しない。
日常のありふれた風景ばかりだ。
それでいて、各カットが見る者に強い印象を残す。
物語の展開にそって、まさに二人の心の揺れを、風景によって写し取っているからだろう。

この映画でのソン・イェジンは見事だ。
今まで清純派のイメージが強かった彼女だが、今回初めて人妻を演じ、ラブシーンにも挑戦している。
実にうまく女性としての心の翳りや哀しみを表現していた。
とても23歳とは思えない演技力だ。
『四月の雪』の成功は、彼女の演技に負うところが大きい。

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