一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『四月の雪』 におけるソン・イェジンの素晴らしさ

2005年09月21日 | 映画

映画『四月の雪』によってソン・イェジンを初めて見る人は、なぜ彼女が「韓国映画界の宝石」と呼ばれているのかが、たぶん解らないのではないかと思う。
それくらい、この映画のソン・イェジンは、自らの輝きを消し去っている。
これはできるようでなかなかできないことだ。


まだ23歳だというのに、まるで中年女のように打ちひしがれた表情を見せる。
何年も結婚生活をしてきた女の疲れや哀しみが体全体から伝わってくる。
初めての人妻役なのに、すべてがリアルなのだ。
下着姿で自分の体を見ているシーンがある。
心とは裏腹に男を求めてしまうだらしない体。
そんな体のだらしなさをも彼女は見事に表現してしまうのだ。
ソン・イェジンのファンも、ソヨンを演じている彼女にきっと驚くことだろう。
事実、ネットで検索して見るファンの声は、憾みがましいものが多い。
それは、ペ・ヨンジュンのファンが見せた反応に似たものがある。
俳優を単なる置物のようにしか見ていないのだ。
ただ清く美しければイイのだというように……。

夫のギョンホが交通事故に遭って駆けつけてみると、さらに辛い事実が出てきて、一層深刻な状況になっていく。
冒頭からずっとソヨン(ソン・イェジン)には悲壮感が漂っている。
そのソヨンが変わっていくのは、インス(ペ・ヨンジュン)に出会ってからだ。
うすく化粧をし、ときおり笑顔も見せるようになる。
登場してきたときの表情が暗かっただけに、その対比が際立っている。
静かで悲しみを抱えた女性だが、インスと出会ってから少し情熱的になったり、インスと体を重ねることで夫を許せるような気持ちになっていくといった、微妙な心の変化、複雑な心理状態も巧く演じている。
まだ23歳だというのに、30代のベテラン女優さえ敵わないような、女としてのしたたかさやふてぶてしさも感じさせる。

「私たち、不倫しましょうか」
映画のカギとなるソヨンのセリフだ。
このセリフ、実はソン・イェジンのアドリブだったらしい。

「この場面は本当にお酒を飲みながら撮影したんですが、あの状況に身を置くと、その言葉が自然と出てきてしまったんでね。そのあとのセリフもほとんどアドリブだったんですけれども。あのセリフだけ考えると、ちょっと笑えるところもありますが、同時に悲しいソヨンの感情がうまく出せたんじゃないかと思います」(『日経エンタテインメント! MOVIE DX』10月号増刊)

なんともスゴイ女優ではないか!
酒が入っているとはいえ、アドリブでソヨンの気持ちを表現するとは――


この文章を書いているうちに、また『四月の雪』を見たくなってしまった。
また近いうちに見に行くことにしよう!
「韓国映画界の宝石」の輝きを見に――。

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