the other side of SmokyGitanesCafe
それとは無関係に・・・。
 




GITANESはイライラしている時にも美味い。
それとは無関係に・・・。


ステテコ「葬式を出すと聞いたのですが。」
私「はい?  はあ、そうですが・・・。」



バタバタと葬儀の準備をしていると、玄関先に来客の気配。
早くも弔問か、と思ったらステテコ姿のおじさんが立っていた。


ステテコ「どなたのご葬儀?」
私「それより、ええと、どちら様ですか?」
ステテコ「ああ、このあたりの自治会長の○○と言います。」
私「ああ、お世話になります。お騒がせしております。」

ステテコ会長「この近くの人から『○○さんのお宅でどうも誰かが亡くなった
       ようだ』って連絡がありまして。」
私      「ほう。」

ステテコ会長「ご葬儀のお手伝いをしなければいけないので、
       いろいろお訊きしたいのですが。」

私「いや、亡くなったのは父ですが、引っ越してきて1ヶ月ほどだし、
  その間オヤジは寝たきりで、ご近所のどなたとも面識もないので・・・。」

ステテコ会長「いえいえ遠慮なさらずに。自治会費も納めていただいてるし、
       自治会葬ということになりますね。」
私「はあ?」
ステテコ会長「自治会葬ですなあ。」

なんだそりゃ。

反論の私「いえいえ、違いますなあ。」
ステテコ会長「え?」
怒りを抑える私「『自治会葬ですなあ』と言われても、違いますなあ。」
ステテコ会長「は?いやいや、このあたりで誰かが亡くなったときは
       自治会でお世話をさせていただいて、自治会葬になるんです。」

呆れる私「お申し出は大変ありがたいのですが、葬儀はウチでなんとか
     頑張って出しますので・・・。自宅でやりませんし・・・。」

呆れるステテコ「はあ・・・それでもねえ・・・。」

困る私     「はあ・・・。」
困るステテコ  「困ったなあ。」
私       「何が困りますか?」

困るステテコ  「いや、もし近所の人がお宅のご葬儀に気付いたときに
        『葬式の連絡がこなかった!』なんてことで混乱する人が
         出てくるんですよねえ。」

私       「そんなもんですかねえ・・・。」

ステテコ会長「それでは、なんとか自治会の第二班のみなさんにだけでも
       連絡をしておいた方がいいですなあ。」

妥協する私 「ええ、弔問不要とか、近所の人の参列お断りとか、
       そんなつもりはないです。もちろんご近所の人には
       これからもお世話になりますし、連絡はした方が
       いいですね。」

ちょっとホッとステテコ「そうでしょう!そうでしょう!じゃあ、班長さんに
            連絡してください!」

芝居する私  「そうですよね!そうですとも!」

ステテコ会長  「それと、第二班の掲示板に葬儀の告知を掲示してください。」
私      「まあ、てっとり早いですよね。」
ステテコ会長  「そうです。それと、その紙には『家族葬』にて執り行うと
         はっきり書いてくださいね。」
疑問な私    「は?」
ステテコ会長  「いや、葬儀があるときは自治会の25以上あるすべての班の
         掲示板へ案内を貼るんです。」
私       「はあ・・・。」
ステテコ会長  「で、二班の掲示板にだけ掲示するとなると、それは自治会葬
         ではなくて、『家族葬』ということになります。」
私       「ほう。」
ステテコ     「二班の掲示板を見たが、こっちの掲示板にはない。どうなって
         るんだ・どうすればいいんだ・なんて言い出す人もいるし。」

再び呆れる私  「・・・」

ステテコ    「逆に言うと、家族葬 と明記すれば 他の掲示板に貼らなくても
         いいということですわなあ。」
私       「そうなんですかねえ。」

ステテコ    「だってそうでしょ、自治会葬じゃなければ家族葬なんだし。
         そうですよね、お宅は家族葬でやるんでしょ?」

小声の私    「まあ、名前をつけるとすれば『家族葬』に違いないけど
         じゃあ毎日のばんめしも『家族ばんめし』だし・・・」
ステテコ    「なんですか?」
私        「いや、こっちの話。ということはこのあたりでは
         『自治会葬』が普通で、そうでなければ『家族葬』しか
         ない訳ですね?」
ステテコ    「そうですよ、もちろん。」


私       「わかりました。二班の班長さんには連絡を入れます。
         それと、班の掲示板をお借りして葬儀の案内を貼らせて
         いただきます」
念押しステテコ 「『家族葬』と書いてくださいね。」
念押され私   「書きますよ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日の通夜の会場。

念のため手配しておいたマイクロバスに乗り、近所の人(ほとんど知らない人)
が10人も来てくれた。二班のほとんどの世帯である。家族葬と書いたにも
かかわらず、律儀にも面識もない家のためにわざわざ来てくれたのだ。
それはホントに素直にありがたい。



しかし、来てくれた人全員が会場内でキョロキョロしていた。
無理もない。
多分葬儀の規模が、彼らの想像する『70歳を過ぎた人の、ひっそりとした家族葬』
の域を超えていたのだろう。



田舎の中の田舎でこのあたりは農家も多く、普段の生活や農作業にも
相互扶助の精神が根付いている。また高齢者だけの世帯も多いので
どうしても葬儀などは周辺の力を借らざるを得ないのだろう。
そしてそれは地域住民に、すんなり受け入れられているようで
決して悪い習慣でも何でもない。
かなりの部分においては素晴らしいシステムであることは間違いない。


しかし、身内の葬儀を(面識もない)他人様に委ねるということに
抵抗がある・とか申し訳ない・と感じる人間もこの世の中には存在する
ということもご理解いただきまして、
あいさつとかえさせていただきます。
ありがとうございました。





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