今年三月以来の歌舞伎を観に行った。
【みどころ】
1.神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)
純粋な娘が命を懸け、極悪非道な父に立ち向かう 渡し守の頓兵衛は、足利と新田の争いで、褒美の金欲しさに新田義興の命を奪った強欲者。ある日、義興の弟義峯が恋人の傾城うてなと一夜の宿を乞いに偶然にも頓兵衛の家を訪れます。頓兵衛の娘のお舟は、気品あふれる義峯にひと目惚れ。一方、義峯の素性を知った頓兵衛は、金目当てにその命を狙い…。江戸時代に活躍した才人、平賀源内が「福内鬼外」という筆名で書いた義太夫狂言の傑作。極悪非道な父頓兵衛と愛しい人を命懸けで守ろうとする娘お舟の姿が対照的に描かれる、見せ場に富んだひと幕をお楽しみください。
2.神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)
江戸の男たちが火花を散らす、鳶と力士の真剣勝負 品川の遊廓。め組の鳶と四ツ車大八ら力士たちは些細なことから喧嘩になり、鳶頭の辰五郎がその場を収めます。しかし数日後、芝居小屋で喧嘩が再熱。一触即発の睨み合いとなるも、江戸座の座元喜太郎に止められます。気持ちが収まらない辰五郎は、密かに仕返しを決意。愛する妻と幼い子どもに別れを告げ、争いに決着をつけるため命知らずの鳶たちと芝神明へ向かい…。 「火事と喧嘩は江戸の華」を体現する粋でいなせな江戸風俗をたっぷりと味わえる世話狂言の傑作。大詰での鳶と力士の大立廻りも見せ場の一つです。江戸っ子の心意気を描いた人気作を上演いたします。
3.新歌舞伎十八番の内 鎌倉八幡宮静の法楽舞(かまくらはちまんぐうしずかのほうらくまい)
趣向を凝らした迫力あふれる新歌舞伎十八番 夜な夜な物の怪が現れるという鎌倉の荒れ寺に、怪しい風とともに現れたのは一人の老女。以前は都の白拍子であったと語る老女は舞を舞い始めます。やがて老女の姿が見えなくなると、次々と物の怪が集まり…。劇聖と謳われた九世團十郎が制定した新歌舞伎十八番の一つ。平成30(2018)年に新たな着想により復活上演された本作を、九世團十郎没後120年という節目の年に上演します。河東節、常磐津、清元、竹本、長唄囃子の五重奏など、豊かな音楽性とエンターテインメント性あふれる、目にも耳にも楽しいひとときをご堪能いただきます。
二幕目の「め組の喧嘩」は2015年以来で、前回は人間国宝・尾上菊五郎、今回は市川團十郎のめ組辰五郎を満喫。文化2年に芝神明社で起きた事件を題材にしているとのこと。
三幕目では團十郎の七変化と共に、團十郎・長女ぼたん・長男新之助との親子三人での舞が微笑ましく、「我らが父13代目にさも似たり」の台詞にはつい口元が緩んでしまった。変化舞踊と早替わり、早戻しなど実に優雅で贅沢な時間だった。