先月に引き続き、歌舞伎座で6年ぶりの再演となった「極付印度伝マハーバーラタ戦記」を観に行った。
【みどころ】ここは神々の世界。神々は人間界を見下ろし、争いを繰り返す人間たちを嘆きます。そんななか、人間界に救いの手を差し伸べたのは太陽神(たいようしん)。象の国の幼き汲手(くんてぃ)姫に子を授け、その子、迦楼奈(かるな)を、平和を以って人間界を平定する救世主として君臨させようと試みます。しかし、汲手姫は迦楼奈を出産するも、赤ん坊の迦楼奈をガンジス川へ流してしまいます。そして、太陽神と対立する帝釈天(たいしゃくてん)は、力を以って世界を支配するべきだと、こちらも汲手姫に子を授けます。帝釈天の子の名は阿龍樹雷(あるじゅら)。歳月は流れ、亜照楽多(あでぃらた)と羅陀(らーだー)夫婦に育てられた迦楼奈は天性の弓の才能を秘めた青年へと成長を遂げます。ある日、迦楼奈は太陽神から、迦楼奈こそが人間界の救世主であるとお告げを受けます。自らの宿命を悟った迦楼奈は、弓の修業のために家を出る決断をし、旅立つのでした。 都では、王族として育てられた百合守良(ゆりしゅら)、風韋摩(びーま)、阿龍樹雷ら五人の王子と、従兄弟にあたる鶴妖朶(づるようだ)王女の姉弟による王位継承争いが勃発。仙人久理修那(くりしゅな)の助言により、王位にふさわしい者が誰かを競う武芸大会が開かれることとなります。都へやってきた迦楼奈もその武芸大会に出場し阿龍樹雷王子と相対しますが、その様子を見た汲手姫は、自らがガンジス川に捨てた幼子が迦楼奈だと気づき…。 激化の一途を辿る王位継承争いに巻き込まれながらも、自らの使命を全うすべく葛藤する迦楼奈。来たる決戦のとき――同じ母をもつ兄弟でありながら、それぞれの使命を背負い人間界に生を受けた迦楼奈と阿龍樹雷はついに雌雄を決する戦いへと向かい…。
「マハー」は「偉大な」の意、「バラタ」は「バラタ族」を表し、「偉大なバラタ族」の物語である古代インドの神話的叙事詩「マハーバーラタ」。平成29(2017)年に『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』として歌舞伎座で上演されると、古代インドの壮大な物語と歌舞伎との新たな融合が大きな話題となりました。初演から6年の時を経て、あの熱狂と興奮が再び歌舞伎座に帰ってきます。自らの運命と向き合い、その使命を胸に懸命に生きる者たちの葛藤を描いた、神と人間が織りなす壮大な物語にご期待ください。
世界最長インド叙事詩なのでガンジス川が登場するのだが、不思議なほど新作歌舞伎との違和感は感じられない。2015年以来の花道がもうひとつある「仮花道」において対峙した演者さんたちの「( 台詞を数人で順々に言う)渡り台詞」が観客の頭上を飛び交う。主演の尾上菊之助、中村隼人の躍動感、坂東彌十郎の存在感の中、女形の中村芝のぶに惚れ惚れしてしまう。戦乱の現代において、この演目のように「平和を以って人間界を平定する救世主」の出現に期待する。