畑に吹く風

 春の雪消えから、初雪が降るまで夫婦二人で自然豊かな山の畑へと通います。

連載195「友人の消息」(その4終わり)

2019-05-21 05:44:58 | 暮らし

 (1964年!体育館も小さいがその後大きな新体育館が出来、バドミントン部などがお家芸になっている)


           友人の消息(その4終わり)


 その後も、帰郷の都度実家よりも先に我が家に来て、帰京間際まで滞在し「いくら居ても良いけれど、

両親にも顔を見せて帰りなさい」なんて私の母に諭されたりさえしていた。


 その後、叔母の店に一人の若い女性が手伝いに入った。彼はすぐに彼女を気に入ったらしい。

しかし、例の性格で調子よく彼女を連れだすことなど出来ない。

「切符を貰ったけれど、二枚あるから一緒に行きませんか」なんて、

不器用な見え見えの音楽会への誘いなどもしていたらしい。


 ある時、居酒屋周辺に再開発の波が寄せてきて閉店、移転することになった。

事情は分からない。たまたまタイミングが無かったのか、彼にその話は伝っていなかった。

彼は、その女の子が嫌って教えなかったのだと思ったらしい。

傷ついた彼はあんなに親しく付き合っていたと言うのに、私には連絡さえくれなくなった。

武骨でシャイな男が、初めてとも言うべき恋で落ち込んだことは分かる気もする。


 そのまま、何10年もの月日が経ってしまった。

ある日、彼が還暦を前に病気で亡くなってしまった事を知った。

後悔の念が沸き上がる。どうして、再度声を掛けられなかったのだろうかと。

 せめて、彼の仏前にお参りに行きたいと思いつつ、果たせぬままに日ばかり過ぎている。

そう遠くも無い彼の実家は、彼の弟が守っていると言う。

ここの所毎年春のお彼岸にはお参りに行こうと、思いつつ何年もただ過ぎ去っている。

             (終わり)

コメント (2)
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