夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「姫の宿」―2―姫御前欠伸する

2007-10-25 22:25:49 | 自作の小説

「何つくり声出しているのよ なつき 」

さやかとは逆に とぼけた反応をするのがすずか
「そんな芸を お持ちとは」

「なつきとは この体のことかえ」
尋ねる表情も声も別人のものだ
なつきであって なつきでない

「『ガラスの仮面』の北島マヤじゃない身のなつきには こういえゲイは無理だと思うぞ」と さやかが言えば すずかも頷く

「ふむ・・・わらわもかような事ができるとは 今迄知らなんだ」

「で そういうあなたは どちら様?」早くも立ち直ったさやかが訊く

命短し こけるな乙女

「姫御前―で良いではないか 寝過ぎて昔の事は忘れた
この者の欠伸に わらわは惹かれたのじゃ
なんとも気持ちの良い欠伸であったゆえ」

「欠伸惚れ―とは珍しや

この神社の姫御前様は恐ろしき祟り神
亡くなられた後 天変地異が続いて
その鎮魂の為に建立されたと聞いております」

「ほ・・・詳しいこと
あれは殿が小心者でな
だいそれた事を企む割りには 情けない気の毒な人であったわ
たまたま台風やら地震やら 落雷 大火 続いたもので わらわの祟り―ということにしおってな
何百年も わらわは祟り神にされてしまった
迷惑しておる」
その割りには楽しげに「ほほ・・・」と笑った

安倍すずかは もう一つ つっこむ
「埋蔵金について 何かございませんか」

「昔のことじゃ 覚えておらぬ
わらわは 眠うなったわ」
欠伸一つ

すずかとさやかは 入れ替わりを目撃する

「ふぁ・ ・・」河馬も飲み込めそうな大口開けて欠伸をしたなつきは 友人達の自分への異様な注目ぶりにきょとんとする
「どうしたさ~」

さやかとすずかは目を見交わし『さっきのは わたし達 夢を見たのよ きっと そうよ』無言で そんな会話をした

娘達が そんなドタバタで遊んでいる頃
警察は真面目にお仕事していた

地道にコツコツ色々調べている
ほぼ死体に遭遇した三人娘達とその家族 人間関係
付近に勤務する人間達
学生達も例外ではない
殺された男―被害者の周囲は当然のこと

更には貴恋山へ出入りしていた人間もチェックしなくてはいけない

一見優男 貴公子然とした雅 京四郎と 人当たりがソフトな山本一男は 聡明女学院に 最近結婚したばかりの三船歳雄32才と 一つ下の雅をライバル視している体育会系 津田政彦は隣りの男子校 清心学院へ 話を聞きに行っていた

「なんで俺達が男子校で 山本さん達が女子校なんすかね」
タワシ頭と言われるピンピンつったった髪 きついまなざし
気の弱い子供なら 目が合っただけで泣き出しそうな外見だ

黒いサングラスかければヤクザさんでも通るだろう

結婚するまでは署内で婦警に一番人気だった三船は「適材適所さ」と笑う

名前の歳雄からトシさんと呼ばれている

津田はやはり政彦からマサ
あだ名も み昔前のヤクザ映画の登場人物のようだ

「差別っすよ 雅が女子校で」と津田はしつこく拘っている

「男より女が怖いんだぞ 団体になると
女子校の教師になった友人は 新米時代 ハゲが出来たのや ノイローゼになったのがいる」

清心学院には中等部一年に藤衣なつきの弟 賢吾が 高等部三年に香月さやかの兄一郎がいた

三年前 父親の周一が捜査中に背中から撃たれて死んだ時 今のさやかと同じ中学三年
大人びた秀麗な顔に強い視線
葬儀の時に一郎は泣いていなかった

弔問に来る客の中に犯人を捜すような・・・刑事の眼をしていた

残念ながら香月周一を殺した犯人は逮捕されていない

一郎は来年東大を受験し 合格すれば警視庁にいる伯父の家で暮らすらしい

歯科医を継いでるあやかは夫が死んでも生活に困っていなかった

三年前はいなかった津田に 三船は説明してやる

事前に連絡していた為か 学院の応接室へ まずは一郎がすぐに現れた

185センチある雅とさほど変わらぬ長身 美貌の母親の面影宿す顔立ちながら いかにも賢そうな落着いた物腰

「三船さん お久し振りです その節は色々お世話になりました 」
津田の方を向き「はじめまして 僕が香月一郎です
このたびは妹がお世話をかけております」
「は・・・はあ」津田の方が押される感じとなった

話が終わり 部屋を出て行く時の挨拶もソツがない

津田は かなり年下の学生に威圧感を覚えていた

次は藤衣なつきの弟 賢吾

こちらも優しい顔して一種の天才らしい
得意なのは理数系だが 平均点が毎回98前後なのだ―と言う

姉との日常 不審人物を見なかったかの質問にハキハキと答えた
「君は将来 何になるか決めているのかな」雑談めいた三船の質問に笑顔で答える
そう言えば賢吾はずっと爽やかな笑顔でいた
「医者になりたいと思っています」

迷いのないしっかりした答えだった

「小学校の校舎の窓ガラス割りに行く連中もいれば なんなんですかね」

「家庭がいいんだろうな
その子にあった育て方をしているんだろう」

「その子にあった?」

「一人ひとり子供は違うぞ 同じきょうだいでも
親の勝手で個性を殺されたら 子供は腐る
学校で荒れる

よく何かあったら 教師や学校のせいにされてるが
基本は家庭だ
家族の中で対話があれば 結果が違うことも多いんじゃないかと思うのさ

この学校もいいんだろうな

どの生徒も表情が明るい
のびのびした顔をしている」

独り者の津田には まだまだピンと来ない話だった

その後は教師達にも「おそうじおじさん」について何か知らないか 変わったこと 目についたことはなかったか
色々尋ねる

教師達は手回し良く生徒達にもプリントを配布し質問してくれていた

刑事達の一日は長い

貴恋山の植物を研究している聡明女学院の教師 小野健三が 市会議員の西山徹也を見たと言う

数人で歩いていたと

一方 被害者の高木光男は 独り暮らしだった

「生きている間に何かを残せればいいな」そうも言っていたのだと
体を壊すまでは いい教師だったらしい

完全な体調でなくては生徒にも学校にも迷惑をかける―と退職したらしい

「若い頃から入院退院を繰り返したお母さんがおられて
嫁さん貰っても苦労させるだけ
で独身を通し お母様の葬儀を無事終えて疲れが溜まっていたんでしょう
倒れて入院

やっと元気になってこられたようだったのに
何の為の人生だったんでしょう

お気の毒に」

これが近所の評判であった

殺されそうな話は出て来ない

通り魔の犯行だろうか

これといった容疑者は 浮かんでこなかった

市会議員の西山は視察だと答えた
学校も多い地域だけに安全性を調査に行ったと
「何事も自分の目で確認する―主義だ」

同行したのは秘書の木村

偶然 中松不動産の社長に会って少し話したのだとか

中松不動産社長の中田松蔵は 高い場所から街を見下ろし仕事の閃きを得るのだと言う

幾らかの疑問 ひっかかりはあるにせよ

出口を刑事達は見つけられずにいた

被害者 高木光男はたまたま不幸な場所にいたのか

単純な殺人事件だ

犯人はいるはずなのだ


平岩弓枝著「千姫様」角川文庫

2007-10-25 11:34:40 | 本と雑誌

平岩弓枝著「千姫様」角川文庫
平岩弓枝著「千姫様」角川文庫
この作品は平成二年九月に単行本として刊行されたとか
十七年前に書かれたことになります

著者は「御宿かわせみ」シリーズが余りに有名
幾度も繰り返しドラマ化されています

テレビドラマでも平岩弓枝シリーズなど一時代をはくしました

息の長い作家です

七歳で豊臣秀頼に嫁ぎ 大坂城落城後は 誰しもが似合いと言った相手と姫路城で暮らし 夫の死後は 弟家光の暮らす江戸へ
出家して天寿院になる
七十歳で亡くなるまで 実に四十年の未亡人暮らし

虚実を取り混ぜ亡くなるまでの物語

未亡人になってからは 殆ど歴史の表舞台に出ることは無かった女性―
その人生前半で余りに多くの死を見て
それでも彼女が真実 本多忠刻を愛していたのであれば
女として幸福な人生ではなかったか とも思う

また逆に以後の人生が必要以上に長く感じられはしなかったかと