もし、3.11が無かったら、東京電力は引き続き日本の電力業界を圧倒的にリードし、世界一の電力会社として君臨していただろう。その権力・地位、資金力、影響力たるや微動だにしなかったに違いない。
しかし、東京電力は力や地位や多くを失い、今や放射能水がタンクから漏れる度に、現地のバルブ操作を間違えたことが分かるたびに、管理や解決能力の低さを厳しく批判される状況である。東電は多くの若い社員が会社を去った。
「もし」「たら」はあまりにも残酷な対比を作ったのである。
電力10社と呼び、中央3社と呼ばれた大手の東京、関西、中部、中規模が東北、中国、九州、小規模が北海道、北陸、四国で、そして更に小規模の沖縄で構成されている。
電力業界は中央3社がリードする場合が多く、その中でも東電は別格だった。地方電力で新たな開発(共通テーマに関し)を提案しても東電で拒否され、実現しないケースが多い。大体は東電が採用し、何年かを経て地方にも普及するのである。
電力会社は株式会社ではあるが普通の企業とは異なる。先鋭的な官僚とも言われ、似ているところも有るが、これもちょっと違うかな。
全体的に技術屋が多く、その大半は高卒で営業所や発電所などの現場を担う。極めてユニークなのは本店と呼ばれる御殿に住む、世の中を知らない住人達。
本店は一際立派なビルで社会の喧騒から遮断されている。その中で、厳しい世間とはかけ離れた、常識とは別物の世界が展開される。元は地域独占と総括原価方式による殿様商売だ。積み上げた原価に報酬率(利益)を上乗せできる。
ユーザーはこのエリアは電気代が高いからと不満が有っても他の電力供給者から買えない。一般社会では価格競争で売値が決まるので、原価も利益率もへったくれも無い。場合によっては赤字でも販売される。
電力会社は赤字を出すと叩かれるが、一方、儲け過ぎると叩かれる。また、人事には自民党国会議員の影響力が強い。つまり、利益は保証されながら儲けすぎてはいけない、自民党国会議員が人事に手を突っ込む。まともな企業論理が育たないわけだ
電力会社でやっているのは経営ごっこであり、経営ではない。それでいて経団連の会長など、よくもやったもんだと呆れ返る。座りは良いし、それらしき事は言える。何しろ金は莫大にある。しかし、世の中の事をまるで知らない。
本店は魔界であり、気持ちの悪い男関係社会だ。特に事務屋はその極みというか、表面は紳士、中身は嘘つき、詐欺師、やくざという、ガラパゴスでも見られない、場面・場所で色変わりの早い極端生物だ。
それにしても、自分を引き上げてくれるバックがいるから実力が有るという感覚は、もう異常としか言いようがない。上との人脈作りに掛ける努力と恥も外聞もなくサービスに勤しむ姿は見事。仕事よりアフターファイブ、土日が最重要。
某副社長は「石橋を叩いて、叩いて、渡らなかった」と言い、某技術系社長は「技術的な実績が無かったのでこれから作りたい」と退任後、子会社で 開発を始めた。
電力会社のトップは、典型的なイエスマンで、言われたことだけをきちんとこなし、ミスなく目立たず、人柄の良い・・というパターンが多いが、某社長はおよそ私の知る限りで電力社員として最も下品、ちょっと世の中変わったかと思う。
忘年会の催しにおいて複数の人間で顔を作ったところ、鼻の役で後ろ向きにぶら下がっていたH君の尻の穴に指を突っ込んだのが現社長だ。30歳代で社長候補(多分口頭で伝えられる)となるから、怖いものが無い。
父親が故後藤田正晴元官房長官の後援会長だったことから飛ぶ鳥を落とす勢いだった「バックだけ大物」とは仲間で、バックだけ大物が私に関して嘘だらけの情報を流し、下品氏にも伝えていた。
私のブラック情報は何度か大量に流された。ある発電所の次長は私を見るなり「あれ、君は普通の人間じゃないか」と言い、営業部時代は、営業所からこんな噂が流れていますが本当ですかと問い合わせが来た。
ある日から、下品氏は距離を置き、全く口も利かなくなった。ああいう手のひらを反すようなやり方は同じ人間とは思えない。ましてや、今や電力会社の社長だ。世の中どうなっているのか。
バックだけ大物は長身で、自分では「ワイは大物や」とか言っていたが、やることがせこすぎる。嘘の噂を流し、嘘の報告を取締役会に上げ、加えて40億円ぐらいは使ったプロジェクトを失敗した責任者が常務になった。
私は原子力プラントの着工で最も大きな問題だったテーマを解決し、電力有効利用技術の開発は電気温水器など主なもので50以上あるし、直接間接の電力需要開発は7,500kwぐらいになるか。
出向中、半導体とシステムしか知らない人間が機械製造業を立ち上げ、自分で営業し開発した装置などが平均4.5億円、間伐材利用の柱製造装置(開発後、他の製造部門に気前良く移管:量産)が1億円程度で年平均約5.5億円受注していた。
他にも実績は色々山ほど有って、自慢話に聞こえて耳障りだからやめるが、そういう仕事人間は電力会社では邪魔な存在であることが良く分かる。
最後に一つだけ、私が若い頃、担当した原発用の水理実験設備建設では「安全を最優先する」と宣言し、上司が何と言おうと安全性を満たさないと判断した方式は採用せず、徹底的にこだわり、数か月悩みぬいて解決させた。しかし生意気だったね。
評価の言葉もかけて貰えなかった私の仕事だが、福島原発の事故を見るにつけて、よくやったと思う。しかし、余りに電力会社が理想とはかけ離れ、重要なところがいかさまで、活躍の場が閉じられたので55歳で辞めた。辞めて良かった。