すでに終わってから1週間になってしまったが、今年の全日本卓球選手権大会は面白かった。
男女とも、新しいチャンピオンが誕生した。
女子は、言わずと知れた福原愛選手。
小学生時代から一般の部に出場して、13回目の挑戦で初めての優勝であった。
しかも、決勝に進出したのも初めて。
14歳で世界選手権ベスト8の実績を残したというのに、
日本勢で最も世界ランクが上位だ(った)というのに、
全日本では決勝進出がないというのが信じられない福原選手であった。
「全日本で勝てないのに、世界大会の代表に選んでよいのか」
などと、彼女を酷評する人もいた。
だから、今回の初優勝は、本当によかったと思う。
決勝の石川選手との試合を見ていると、今までになくフォアハンドで先手先手と攻めていく福原選手を見て、さらにひと回りスケールの大きな選手になりつつある、と確信した。
世界選手権、ロンドン五輪と、今年の彼女の活躍を期待したい。
男子決勝は、予想外の組み合わせとなった。
水谷隼選手対吉村真晴選手。
自身が高校生で日本チャンピオンとなってから5連覇していた水谷選手は、順調に勝ち上がった。
今回は、6連覇がかかっていた。
今年は、ロンドン五輪の年。
水谷自身が、世界のトップを目指して、努力している。
「ロンドン五輪があるのに、日本でなど負けていられない。」という彼の思いは、十分わかる。
そのくらいの意気込みが、日本を代表する選手としては頼もしい。
決勝戦の相手は、吉村真晴選手。
高校生の彼が勝ち上がってくるとは、誰も予想していなかったことであった。
水谷選手は、決勝まで1ゲームしか落としていない充実ぶりだ。
対するに吉村選手は、熱戦を繰り返しここまで勝って来ての決勝進出であった。
私は、五輪に向けて意識の高い水谷選手が、圧勝すると予想していた。
強さを見せつけて、ロンドン五輪に向かってほしいと思っていた。
ところが、試合が始まってみると、予想は裏切られた。
高校生の吉村選手が攻勢に出て、水谷選手が守勢に回る。
準決勝まで積極的に攻撃し、圧倒的な勝利を収めてきた水谷選手が、耐え忍ぶ場面が多いのだ。
それほど、吉村選手の両ハンド攻撃が、すばらしかった。
意外なことに、吉村選手が第1ゲームを先取する。
続く第2ゲームも、吉村選手が連取した。
ここでずるずる行くようでは、ここまで築き上げた今の地位もなかったはず。
水谷選手が、どのようにしてこの逆境を乗り越えていくか、そこがこの試合の見所だと思った。
果たして、水谷選手は、第3、第4ゲームを奪い返した。
さすが王者水谷、と思ったが、第5ゲームは、また吉村選手が取った。
王者水谷危うし。
次のゲームを失うと、敗れてしまう。
本人が言うように、こんなところで負けていては、世界でも勝てないぞ、がんばれ。
そんなふうに水谷選手を応援するようになった私だった。
そのせいか、第6ゲームは水谷選手が奪い返し、最終第7ゲームで決着をみることになった。
最終ゲームは競り合いが続いたが、後半、王者が王者たる強さを見せ、10-7とマッチポイントを握った。
水谷選手からは、ここで決める、という思いを感じた。
決して弱気になったわけではない。
吉村選手の方がすごかった。
水谷選手の剛球を、バックハンドを振り抜いて対抗するのだ。
こんな選手は、今まで見たことがなかった。
水谷選手が、「最初から最後までパニックだった」というのもうなずける。
王者も若者だが、挑戦者はそれ以上の若さで立ち向かう者だった。
挑戦する若者のその姿勢は、受けて立つもう一人の若者を年老いたチャンピオンのように見せる。
なんと、吉村選手は4本連取し、逆にマッチポイントを握った。
吉村選手のサービスを、ドライブの強打で返そうとした水谷選手だが、無情にもボールはアウト。
新チャンピオンの誕生だ。
高校生での王者誕生は、奇しくも水谷選手以来だった。
戻ったベンチで顔を覆ったまま落胆する水谷選手の姿が印象的だった。
対照的に、「止めたのが自分でいいのかなと思いましたが、率直にうれしいです。」と答えた若き新王者吉村選手。
彼には、これから世界を舞台に活躍し、さらに大きくはばたいてほしいと期待する。
こんなところで負けるわけにはいかない、と思っていたのに、終盤一気に逆転の負け。
水谷選手にしてみれば、ショックは相当なものだったと思う。
しかし、ここからはい上がり、水谷選手にはさらに大きく成長してほしいと願う。