植物は、花を咲かせた後、手段や方法に様々な工夫を凝らし、種や繁殖体を散らして次々に生き続けようとしている。
本書は、そうやって一度枯れてしまった後、どんな姿になっているのか、その姿からどうやって生きつないでいくのか、ということが書かれている。
前書きには、
現生するすべての植物は、はるかなる過去の時間をくぐり抜けてきた植物たちの「末裔」であり、あるいは「なれの果て」ということができる。
「果て」は今も続き、くり返されている。
と書かれてあった。
なるほど、これは「なれの果て植物図鑑」なのである。
紹介されている植物については、どれも1ページか2ページの写真入りで、それぞれの特徴がわかりやすく短い文章が添えてある。
だから、理屈っぽくはなく、読みやすい。
たとえば、「ツルボ」という植物がある。
この花は、秋に咲いて、初めて見つけたときは喜んだものである。
その説明は、次のようであった。
ツルボの仲間は約100種を数えるが、わが国にはツルボただ一種が分布するのみで、貴重な植物である。
春に出た葉は例外なく夏までに地上から姿を消す。秋になると、2枚の葉の間から花茎が生じるが、そのなかにまったく葉をつけずに花茎だけのものが混在する。日本列島と大陸のツルボが混じり合って複合種が生じた結果だと考えられている。飢饉の際、その鱗茎(りんけい;葉や葉の一部が多数重なって球形になった地下茎)が多くの人々の命を救った話が伝わる。食用となる大きな鱗茎は葉のない時に限られるので、枯れた果茎でその場所を探り当てる。
そうか、そんな珍しさがある植物だったのだな、地下茎を食べることもできたのか、と初めて知った。
枯れた状態がどんな具合なのか知らなかったが、この写真で見ることができた。
また、近年、秋に田んぼなどで見るようになったものに、ヒレタゴボウ(アメリカミズキンバイ)がある。
北米原産のヒレタゴボウ(アメリカミズキンバイ)は、戦後わが国に渡来した。水湿地や浅水中に生えるが、ところによっては水田雑草の優占種となる。水田に侵入できるのは一年草だからである。この植物が気根(呼吸根)をもつことはあまり知られていない。浅水中の群落の周りには泥土に横走する根から分かれた支根が水面に向かって直上根となって列をなす。直上した根は、水面では浮いて横たわり「浮根」と呼ばれる。一年草では非常に稀な性質といえる。
次代につなぐために、気根をもつとか、浮根になるなんて方法、考えられないよ。
でも、そうか、そういうやり方で、毎年同じ田んぼで見かけるようになったのか、と感心した。
多少専門的すぎるかとも思ったが、それでも分かりやすいように長くなり過ぎないように配慮してある文章も、読みやすかった。
最初は、「果て」だから、枯れた姿ばかりを写したものかと思ったのだが、違っていた。
そんな姿から、次代へ命をつなぐ方法や手段に焦点を当てて解説していたのだ。
視点が面白い植物図鑑(?)であった。