読後さわやか、という言葉がぴったりの小説だった。
小説というが、実話がかなりの部分、入り込んでいる。
真実だからこそ、話が現実味をもって、主人公の活躍が生き生きと描かれることにつながっている。
主人公は、東京に生まれ育ち、中学からエスカレーターで東京の私立大学を卒業したばかりの若い女の子、大森理香。
なんとなく受けた大手出版取次「大販」に就職したが、いきなり縁もゆかりもない大阪勤務を命じられる。
関西弁も、関西風の人間関係も大の苦手で、失敗も冒した理香が、上司に連れていかれたのは、尼崎のある小さな書店。
「書店のオバチャン」と出会う。
この、町の小さな書店のオバちゃんとの出会い、話を聞いたことをきっかけに、理香の仕事と人生への考え方が少しずつ変わり、社会人として、職業人として成長していく。
この尼崎の小さな本屋のオバチャンは、実際に存在している方。
ストーリーの中で、オバチャンが自ら主人公理香に話すページは、「エピソード」としてグレーに彩られていて、何ページか続く。
初めに語られているエピソードが、本屋なのに本屋しながら傘を250本売った話。
それっていったい、どういうこと!?
と、まずは驚いた。
それ以降、エピソードのページは、オバチャンの語りがどれも楽しかった。
全体で、エピソードは、№8まであった。
それがすべてオバチャンの実体験に基づく実話なのだ。
押し付けがましくなく、聞いていて(正確には読んでいて)心地よい話ばかりであった。
それは、主人公だけでなく、読む私もそうであった。
主人公理香は、オバチャンの話を聞くたびに元気を出して、仕事に対する姿勢も前向きになっていくのだった。
「実在する書店をモデルにした感動のノンフィクション&ノベル」と書いてあったが、本当にそのとおりだった。
生きていくうえで、仕事をしていくうえで、何が大切かを教えてくれた。
仕事をする上でかかわっている方々はたくさんいる。
そういう方々に対して「誠意」や「真心」をもって取り組むこと。
そういう方々との一つ一つのつながりを大切にしていくこと。
自分が現職時代に大切にしてきたことと重なって、オバチャンの話や主人公の行動に、うなずきながら読んでいた。
尼崎の小さな本屋のオバチャンは、尼崎市「小林書店」の小林由美子さん。
今も健在である。
インターネットで検索して、いくつかのぞいてみても楽しかった。
その後も相変わらず元気に活躍しているのが分かって、うれしく感じた。
小説の主人公の成長も、小林さんの生き方も、とても素敵だった。
読んでいて、爽やかな風を感じた一冊だった。