最近の歌で、聴いていて心地いいのは、YOASOBIの歌。
「夜に駆ける」がヒットしたときには、上がり下がりがあって早口で、ずいぶん歌いにくい歌だなあとか思ったりしたが、「もう少しだけ」が「めざましテレビ」のテーマソングとして流されていた頃から、気持ちよく聴けるようになった。
以降、ダウンロードやCDによって、YOASOBIの曲を購入して聴くようになった。
彼らは、去年は「アイドル」を大ヒットさせた。
そんなYOASOBIの特集番組として、去年5月にNHKの番組で、「MUSIC SPECIAL YOASOBI ~小説を音楽にする魔法~」という放送があった。
その番組では、「『はじめての』プロジェクト」というYOASOBIが取り組んだプロジェクトを紹介した。
YOASOBIは、「小説を音楽にするユニット」として、小説から歌詞やメロディを生み出し、音楽を作り上げてきている。
この「はじめての」プロジェクトは、4人の直木賞作家に小説を依頼し、書き上がった作品を原作として4曲の新曲を生み出すというものだった。
その番組では、新たな小説を書き下ろした4人の作家 島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都と、YOASOBIのメンバーが一人あるいは二人で対談し、小説にこめた作家の思いを知ったり、そのストーリーをもとにYOASOBIがどのように曲としての表現を生み出していったりしたのかを明らかにしていた。
その番組を見てから、「はじめての」プロジェクトで作られた4曲をダウンロードして、何度か聴いたのだった。
作家たちの小説を、どれもAyaseが作詞作曲し、ikuraが歌って表現する。
なかなか見事なものだと思った。
曲は聴いたけれども、4つの小説はまだ読んだことがなかった。
このたび、図書館から単行本で「はじめての」(島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都著;水鈴社)を借りて読むことができた。
「はじめての」というだけあって、1つ1つの作品に、どういうときに読む物語なのか書いてあった。
★「『私だけの所有者』――はじめて人を好きになったときに読む物語」(島本理生)
➡「ミスター」(YOASOBI)
★「『ユーレイ』――はじめて家出したときに読む物語」(辻村深月)
➡「海のまにまに」(YOASOBI)
★「『色違いのトランプ』――はじめて容疑者になったときに読む物語」(宮部みゆき)
➡「セブンティーン」(YOASOBI)
★「『ヒカリノタネ』――はじめて告白したときに読む物語」(森絵都)
➡「好きだ」(YOASOBI)
島本氏の「私だけの所有者」に「初めて好きになったときに読む物語」とあったり、森氏の「ヒカリノタネ」に「はじめて告白したときに読む物語」とあったりするのは、なんだか笑みがもれる。
だが、辻村氏の「ユーレイ」は、「はじめて家出したときに読む物語」……、ん?家出?家出って、そんなにするものか!??
まだそこまでは笑えるけれど、宮部氏の「色違いのトランプ」は、「はじめて容疑者になったときに読む物語」とある。
おいおい、容疑者になることってあるのかい?
しかも「はじめて」って、2回も3回も容疑者になるのか?と、そこを見ただけでも笑ってしまった。
作品には、SF的な物語やその要素を含むような物語もあった。
それぞれ短編小説で、フィクションであるから、まあどんな内容でもよいのだけどね。
1つ1つの作品についての感想を述べるのはしないでおく。
だけど、それぞれの物語を読んでから、YOASOBIの作った歌を聴くと、「へえ~、うまいものだ」「音楽化できるなんてすごいな」と感心した。
4曲とも曲調にそれぞれ工夫があり、また小説を読んでいるからこそわかる詞がついている。
よくもまあ、これだけの曲を作るものだと、コンポーザーのAyaseに感嘆した。
そして、それを表現して歌い上げるボーカルのIkuraに感心した。
これらの曲は、概して3分から4分のものなのだが、それぞれミュージックビデオもある。
それらは、どれもYOASOBIの歌声とともにアニメーションの映像が流れている。
YOUTUBEで、それぞれの作品映像を見ながら、楽曲を聴いた。
作品によって、小説の物語を追うアニメのスタイルにも変化があって、見ていて面白かった。
小説や歌のイメージを壊していないのだ。
これはいい。
これは最高だ。
私の場合、①楽曲→②小説→③ミュージックビデオの順番で作品を味わうことになったが、こういう楽しみ方ができるのは楽しい。
これができるのは、YOASOBIだからこそだ。
読書をしながら、彼らのもっている力に改めて感心した。
YOASOBIは、間違いなく新たな型をもった表現者なのだということを強く認識したのであった。