「世界で戦えるタイムを出してもこれが最後と思っていました。これでやめるからこそ出たタイムでもあると思います。競技者としては引退しますが、走ることは好きなので、市民ランナーとして楽しく走っていきたいです」
潔いなあ。
今日の別府大分毎日マラソンで、初マラソンの青山学院大若林宏樹選手の走りが素晴らしかった。
大学4年生の彼は、ひと月前に、箱根駅伝の5区を走り、区間賞で青山学院大の往路優勝・総合優勝に貢献した選手だ。
箱根駅伝でもっともハードな5区を制したのだから、すごい選手だと思うのに、彼は大学を卒業したら、競技ランナーとしては走らないのだという。
つまり、現役引退だ。
このレースで引退を決めていた彼が、今日の別大マラソンで、優勝した外国人選手とトップ争いを演じ、日本人トップの2位と大健闘のレースをした。
記録は、2時間6分7秒の日本学生新記録であるどころか、日本人の初マラソンの記録をも更新するすばらしいものであった。
そのうえ、2時間6分30秒を切って走って日本人トップだったのだから、今夏の世界陸上の有力な候補に名乗りを上げたことになるのだ。
ところが、冒頭の言葉を残し、あとは競技者として走らないと断言している。
「陸上人生で、有終の美を飾れました。山あり谷ありの陸上人生でした。やりきったという気持ちです」
…なのだそうだ。
そういう彼の表情は、非常にすっきりした感じであった。
大学卒業後は、日本生命に入社することが決まっているのだそうだが、もう競技選手としては走らないと、現役引退を表明している。
「実業団で競技を続けることを考えた時期もありましたが、最終的に競技は大学まで、と決断しました。中学生の頃から箱根駅伝が一番の目標だったからです」
と、きっぱり話した。
青学大の先輩では、2020年に、当時ブルボン入社が決まっていた吉田祐也選手が、現役最後と決めて走った、この別府大分毎日マラソンで、当時日本学生歴代2位の記録(2時間8分30秒)を出して、引退を取りやめたことがある。
そして、GMOインターネットグループに入り、昨秋の福岡国際マラソンでは、2時間5分16秒で優勝するなど、結果を出している。
レース前に、もし好記録が出た場合、引退撤回もありえるかという質問に対し、若林選手は、
「それはありません。やめることを生半可な気持ちで決めていません」
と答えていた。
今回も、レース後、瀬古利彦氏に
「これで本当に終わるの?」
と問われると、
「本当に終わります」
ときっぱり答えていた。
なんか、とても清々しく爽やかな青年だと思った。
自分の決めた道をしっかり進もうとしているように見えた。
ここまでやれたのも、最後と決めていたからだという彼なりの理屈も説得力があった。
周囲の人たちが思うように、これで辞めるのは惜しい、と本人が思えば、引退の撤回もあり出るとは思う。
でも、今日のレースで、優勝した選手と一騎打ちになったときに、彼は今の自分ができる限りの勝負をした。
残り2kmになってから、先に勝負を仕掛けたりした。
そこに、若林選手の挑戦する姿勢を見ることができた。
今の力で精一杯の走りをしたが、それでも勝てなかった。
もし、競技を続ければ、こんな世界的な選手に対して勝てるようになるまで、勝てるようになるかどうかわからない鍛錬を続けて行かなくてはいけない。
それよりも、新しい道に挑戦して自分の人生を切り拓いていきたいという思いがあることにに対して、私は感心してしまう。
吉田祐也選手のように、周囲からの説得で競技を続けるようになる可能性もあるのかもしれない。
だけどとにかく、今日のレースの挑戦する姿勢、レース後の清々しくしっかりした対応は、「あっぱれ!」であった。
今後どうなるか分からないが、
この若者の未来に幸あれ!
と、心から願う。