【大谷昭宏のフラッシュアップ・10.02】:私たちは年寄りに甘すぎないか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【大谷昭宏のフラッシュアップ・10.02】:私たちは年寄りに甘すぎないか
黒い瞳にピンと立った耳。白いポメラニアンの朝陽くんの映像を見るたびに胸がかきむしられる。7月、名古屋市で6歳の女の子と青信号で横断歩道を渡っていた朝陽くんは信号無視の車にはねられて死んでしまった。車はそのまま逃走した。
それから女の子の家族は毎日、「シルバーの信号無視の車を探しています」とプラカードを掲げて現場に立った。警察も捜査を続け、先月末、運転手を書類送検した。だけど容疑は犬をひき逃げしたことではなく、信号無視など。もっと驚いたのは、運転していた男は91歳の超高齢者だった。
私は男が女の子の家に謝罪に行った映像も見たが、なんと、つえをついて、歩くどころか立っているのがやっと。悪気ではなかろうが「女の子でなくてよかった」と家族を逆なですることを口走り、女の子はただただ大粒の涙を流し続けていた。
私は4年前、池袋で87歳の元高級官僚が車を暴走させ、母親と3歳の女児を死亡させた事故で、批判を浴びながら「私たちは年寄りに甘すぎないか」と言い続けた。だが事故の後、一時増えた高齢者の免許返納は、その後減り続けている。
そんな中、埼玉では86歳の男が運転する車が、ほかの車に激突しながらまるで脱走した動物のように暴走を繰り返した。だがこの86歳、「免許返納の気持ちは?」という取材に怒気を含んだ声で「ない!」のひと言。
そもそも飲酒運転が事故を起こさなくても犯罪となるように、つえをついた91歳が時速100キロ以上も出す車を走らせる、それ自体がすでに犯罪ではないのか。
あらためて、もう一度言う。「私たちは年寄りに甘すぎないか」。
◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)
ジャーナリスト。TBS系「ひるおび!」東海テレビ「NEWS ONE」などに出演中。
■大谷昭宏のフラッシュアップ
元読売新聞記者で、87年に退社後、ジャーナリストとして活動する大谷昭宏氏は、鋭くも柔らかみ、温かみのある切り口、目線で取材を重ねている。日刊スポーツ紙面には、00年10月6日から「NIKKAN熱血サイト」メンバーとして初登場。02年11月6日~03年9月24日まで「大谷昭宏ニッポン社会学」としてコラムを執筆。現在、連載中の本コラムは03年10月7日にスタート。悲惨な事件から、体制への憤りも率直につづり、読者の心をとらえ続けている。
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・連載・「大谷昭宏のフラッシュアップ」】 2023年10月02日 08:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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