朝のラジオ放送で、喜多流「小原御幸」の續きを聴く。
平家一門を政治的立場から滅亡へ追ひやった張本人たる後白河法皇が、實家の滅亡を目の當たりにし、且つ生き残らざるを得なかった一人の女性に、その有様を「御物語り候へ」と促す──
そして謠曲の性質上とはいへ、最後はなにも云はずに還御するところが、聴く側にとっては深い。
“本當の思ひ出とは、語りたくないもの”──
この大曲に接するたび、私はさう思ふ。
私が生まれる前に亡くなった母方の祖父は、第二次大戦中に兵隊として赴ひた満州でのことにつひて、「とにかく寒くてなぁ……」以外は何も語らなかったと聞く。
私には、何となくわかる。